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『エヴァンゲリオン』 緒方恵美×田中刑事 スペシャル対談 3

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時代を超えて、なぜ『エヴァンゲリオン』の世界に、14歳の碇シンジに、少年少女はシンクロするのか――
演者が、キャラクターに自己を投影して、視聴者と共感し合う、表現する意味と創作の核心に迫る、2時間10分の超ロングインタビュー、第三章。

司会=佐川俊彦(京都精華大学マンガ学部准教授)

 

謎めいているから惹かれる。

緒方 さきほど、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』から『エヴァ』に入ったと伺いましたが、昔のテレビシリーズや当時の劇場版も見ていただきました?

田中 もちろん、はじめが『新劇場版』だっただけで。『:序』を見たときは『:破』が上映される前だったので、先が気になって、気になりすぎて。

緒方 『:序』を見て、遡ってテレビシリーズをご覧いただいたと。

田中 そうです。そのあと『:破』を劇場に見に行き、「ぜんっぜん違う」となって(笑) 
「あれ、これ、どっちが正解なんだろう」ってわからなくなって、たぶん、それも引き寄せられた原因の一つだと思う。

緒方 『:序』って2007年公開でしたよね。ということは、リアル13歳か14歳じゃないんですか?

田中 それが2009年にテレビ放送されたものを見たので、15歳、高校生でした。
言い方は悪いんですが、主人公としてシンジくん、最初は情けないなっていうイメージ。

緒方 そうおっしゃる方は多いですね。

田中 他のアニメを見ても、主人公は男らしく突き進めという感じなのに、シンジくんには弱々しい感じがある。いままでのアニメにはない、頼りない主人公が意外で、不思議な感じがしました。

緒方 2009年の段階でまだ、いままでにない主人公だったんですね……。

田中 僕にはそう感じました。そのあとにどんなアニメを見ても、僕のなかでは『エヴァ』が先にあったので。

緒方 何で『エヴァ』を好きになってくださったんですか。

田中 全部不思議だったんですよね。使徒って何? エヴァって何? まだ14歳の子たちが何でこんな苛酷なことさせられて、エヴァに乗せられてるんだろう。苦しそうって。

ロボットというものは自分を守る、本来、外装なわけなんですが、エヴァは操縦しているとダメージを食らう。外傷はないんですけど、シンクロしてるだけに乗っている人たちにも、腕を引きちぎられたり、貫かれたりっていう痛みは苦しみとしてある。

『エヴァンゲリオン』 緒方恵美×田中刑事 スペシャル対談

 

田中 そもそも「人造人間エヴァンゲリオン」じゃないですか。「エヴァって人なんですか」って先輩に訊いてもわからず、テレビシリーズを見て、そのあとに劇場版を見て引き寄せられすぎて。

壊れたときに出る変に生々しい音も気になって、普通のロボットアニメじゃないって、すぐにわかりました。見ていると苦しさが痛みとして伝わる。苦しくても戦わないといけない――

僕がもし14歳で、シンジくんの立場だったら? いや、でも同じく逃げ出すのかなと想像して辛く思うところはありました。

緒方 すみません。辛い思いをさせて(笑)

田中 シンジくんは寂しがり屋で……。他者に認められたい欲が強い、僕にはそこはあまりないんですが、自分は必要なのかと自身の存在価値を考えることはありました。

僕は試合が得意じゃない。練習をいくら積んでも、試合になると不安な部分が出てきてしまう。だから、自分がシンジくんの状況に置かれたらどうなるのかとも考えましたし、シンクロしてしまったのかなと。

緒方 さきほど試合にのぞむときには「逃げちゃダメだ」という境地になられるといったお話をされていらっしゃいましたものね。

田中 でも試合はやるしかない、逃げられない――自分で覚悟を決めて本番に挑む、そういうところはシンジくんと当てはまるのかな。シンジくんでいうところの、エヴァに乗って突き進む感じ。

緒方 田中さんも、一人で戦いにいく男ですからね、誰も助けてくれないところに。

 

 

生き方のポリシー。

田中 僕は調子が悪くなると、どうやって乗り越えているのかわからない。誰に相談することもなく、一人で消化しているのかもしれないです。

とりあえず、できそうなことを一つずつ試して、ダメなら次のアプローチを、ダメなら次、ダメなら次と探すことをやっています。あてはまればそこが悪かったのかって、そうやってスランプを抜けてきたんですが……。

緒方 スケーターの方は試合までに調整して、大きな流れのなかでスランプがあるわけですよね。

声優は細切れで、全然違う仕事に毎日向かうんですよ。今日の午後、4時間とか。午前中お休みだけど、次の日は3つあるとか。だから、この作品をやるための波っていうのではないんですね。その代わり、日々のアップダウンが激しい仕事なんです。

今日、めちゃくちゃダメだったかもって落ち込んで、眠れないなと思っていても、次の日の朝、起きて、メールで「オーディションが受かりました」とくれば、「そうですか!」ってアップになって。「いやいや、良かった」と思っていたら、その日の午後に「このあいだ受けた作品なんですけど、やっぱダメでした」と聞いて、「あぁ、そうですか……あの作品、すごくやりたかったんだけど」みたいに細かく、毎日波が来ちゃう。むしろスランプ込みが毎日のルーティーンというか。

役者の間でよく言うのは、アニメのレギュラーが終わると、次のレギュラーに出会うまでを就職活動期間っていうんですよ。オーディションっていうのは、基本落ちるものなので。

そういう波が毎日あるので、小出しにして逃がすというか、自分の気晴らしの方法を、こまやかに見つけている人が多いかも。ゲームをする人もいるでしょうし、私のように日帰り温泉に行って、とりあえずサウナーになったりも(笑) めちゃくちゃ走り込むのもそうですし。大好きな友達と吞みにいくとか。

『エヴァンゲリオン』 緒方恵美×田中刑事 スペシャル対談

 

―― 長いスランプ。たとえば鬱っぽくなったりは?

緒方 新しい依頼がしばらくないとなりますけどね。通常は次の別の仕事があるので、ずっと鬱っぽくしていられない。あんまり長く引きずってもいられないんですよ。でも鬱は仕事によって癒されることもあります。

たとえば、『カードキャプターさくら』の月城雪兎というキャラクターは、穏やかな青年なので、めちゃくちゃ辛い気分でも、スタジオに入って雪兎の精神になると、すごく落ち着いてリラックスする。スタジオを出るころには、「いや、今日はいい日だった」と優しい気持ちで帰れる。

田中 収録に向けて、何かルーティーンはありますか?

緒方 全然ないですね。田中さんはあるんですか?

田中 僕は持たないように変えました。昔は決めていたんですけど、一つ崩れるとできなくなると思うのが嫌で、その場で全部対応しようって。ルーティーンをなくしてから、気持ちが楽になって試合に挑めるようになりました。けっこうみんなはあるようなんですけど。

緒方 勝負事だとそういうのを作りたくなる気持ちもわかります。

私は……高い声を出さなければいけない収録がある日の前夜は、お酒を飲まない、ということくらいですかね?(笑) 逆に低い声のときは、深酒をしてから行くと倍音が出やすくなるなんてこともありますよ。ちょっと落ちるっていうんですか。音に深みが出て逆に低音が響くんです。

―― なんだか楽器っぽいですね。

緒方 本当にそう、楽器です楽器です。

―― 物事に迷ったとき、何を重要視していらっしゃるんでしょう。基準とか、ポリシーとか。

田中 スケートに全てを傾けて、それ以外は排除してここまで来たわけですが、最近は難しいほうへ行こうと考えていますね。険しい道のほうに価値あるものがあるという台詞を、何かのアニメで聞いて「これ、いいな」と。困難に向かっていくほうが長く楽しめますし。

―― 楽なほうではなくて。

田中 僕は暇つぶしが嫌いで、いつもワクワクしながらやっているのです。満たされるものを探している。

緒方 似ているかもしれないんですけど、私は自分を含めた、周りの人たちと一緒に生きていきやすい方向を選びます。みんなで一緒に生きていける方向。いまなんかまさにそうですけどね。

油断するとみんなで死ぬので。死ぬっていう選択肢だらけじゃないですか、あっちもこっちも。だから死なないように。自分はいいけど、スタッフをおいていってしまいそうだとか、そういう道ではなくて。

―― 負けて勝つ、というか。

緒方 負けるんだけど、活かして次の糧にすれば負けることにならない。

ただ田中さんのように試合があると数値で出てくるから、そういうところに向かっているのはすごいし、大変だなと思います。我らは数値に出るとしたら視聴率ですかね。あとは販売数とか。興行収入とか……それも辛いわ!(笑)
お金にならないと次が作れないので、それはね、みんながんばりますけど。

 

 

シンジとカヲル、寄り添う少年二人。

―― シンジくんって、がんばってる女の子に近いものがあるのかな。それでカヲルくんが現れると、突然そっちに行っちゃった。

緒方 “行っちゃった”っていうのはあまり適切ではないかな。海外のフェスに行っても、よく女の子に、カヲルくんはシンジくんの恋人でしょ、みたいに言われて「違うよ」って返すと、「ええ!?」とガッカリされるんですけど(笑)

見放されて誰もいなくなってしまって、友達も親も信じていた人もいなくなって、居場所も何もなくなったときに、たった一人だけ側にきて「君のことはよくわかってるよ」って言ってくれる人がいたら? 誰でもそうなると思う。カヲルくんしかいなかっただけ。そのくらい彼はまだ子供だった。

田中 『:Q』でも、カヲルくんだけですよね。

緒方 ただ『新劇場版』シリーズとテレビシリーズは近いけど違う世界なので、カヲルくんとの在り方も昔とはちょっと違います。

―― どう違うんでしょう。

緒方 『:序』は、テレビシリーズの1話から6話を、そのままなぞったものではないんです。『新劇場版』シリーズとテレビシリーズの大きな差は、大人がちゃんと大人だってこと。同じ状況でもテレビシリーズの6話と『序』の最後では、シンジの気持ちは違う。

だって「行きなさい」と言うだけだったミサトさんが、「あなた一人で戦っているわけではない。あなたが死ぬときは私たちも死ぬの。あなたと一緒に私たちもいるのよ」って説得してくれるんです。手を握ってくれて。
だから、しばらく握り返して「乗ります」となったので、そういう意味で乗りに行ったのはシンジ自身。なんとなくくっついていった、テレビシリーズのヤシマ作戦とでは違う。

その先の延長線上に『:破』があって。カヲルと出会った『:Q』は、『:破』で何かを成し遂げたシンジなので「なんでみんな怒ってるんだろう?」という戸惑いはあるけれど、カヲルくんと向き合っているときも頼りきるのではなく、対等の友達として接していられる。何かを成し遂げている、精神が強いシンジになっているから似た設定だけど、違う物語になっているんですよ。

『エヴァンゲリオン』 緒方恵美×田中刑事 スペシャル対談

 

―― はたからみると、やはり可哀相だと思うわけですが。どうしたら幸せになれるかと。

緒方 何をもって幸福と呼ぶかは分からないですけど、シンジは十分幸せだと思いますね。だって居場所があるって、すごいことじゃないですか。

私は彼が不幸だと思ったことは一度もないです。シンジ本人はそう思うときはあったと思いますが……特にテレビシリーズでは。

田中 シンジくんの状況はすごく辛いっていう感覚で、僕も見ていました。全然報われない。あれだけがんばっても報われないなんて、と――

愛されていないわけではないけれど、幼いころにお母さんを亡くして愛された記憶を忘れている。両親の愛情を知らずに育ったシンジくんだから、誰かが愛情を注いで、その愛情への飢えを満たしてくれたら……満たされると思う。

それから、僕が思うのは、話を聞いてあげる人がいてほしいってことです。シンジくんからは、誰かに相談するのはなかなか難しい性格ですよね。聞いて欲しい感は出しているのに、気にかける人はいても、深く話を聞いてあげる人がいない。

―― カヲルくん以外にも。

田中 でも居場所があるのは、やっぱり幸せなことになるのかな。テレビシリーズと『新劇場版』シリーズでは、周りの大人の対応は確かに違いますし……。

それでも『:Q』の最後は辛かった。特にカヲルくんが出てくるあたりは、もう辛くて。最後に助けてくれるのはカヲルくんだけだったのに。

緒方 ボロボロで、シンジは言葉も出なくなってしまいましたね。目の前で友達の首が吹っ飛ばされたら、そりゃ辛いだろうと思います。しかも自分の首に付いていた装置を引き取ってくれて、それが原因で――

それでも首根っこをつかんで、ひきずっていってくれる女の子がいるわけじゃないですか。素晴らしいことですよ。誰もいないより、全然いいじゃない。

庵野さんがテレビシリーズを作られているときはライブ感満載で、そのときの気持ちをぶつけていて。『新劇場版』シリーズはあのときとは違って、いろんなことを乗り超えた庵野さんが、エンターテインメント作品を作るって決めて始めたシリーズなので、違っていて当然なんです。私は庵野さんではないので、庵野さんがどういう想いで、というところまでは、本当のところはわかりませんけれど。

 

 

誰にでもある、14歳の心。

―― 以前、僕が庵野監督にインタビューしたときに、監督は「カヲルはシンジの理想の姿、なりたかった分身。≪もう一人のシンジ≫だから、同性でないとダメだった」とおっしゃっていた。緒方さんも「シンジはもう一人の自分」とツイートされていましたね。

緒方 最初にお話をいただいて仕事が決まったときは、シンジは自分と真逆のタイプなのでどうしようと思いました。でも私にもそういう部分はあるんですよね。

人にもよりますが、中学生は小学生では見えてなかったことが見えてきて疑問を持つ、最初の年代ですよね。「あれ? もしかして、お父さんの言うこと間違ってるんじゃないの?」とか。

戸惑って、見えてきてしまった世界に対して、アスカみたいに反発していく子もいれば、シンジみたいに吞み込んでしまう子もいる。そういうところは自分にもあったなと、ひとつずつ探っていった感じですけど。いまとなっては簡単なことで、自分にとっての芝居はエヴァだったのではないかと思います。

あんまり言うとよろしくないんですけど、私は小学生のとき、いわゆる成績がいいタイプで、オール5に近い成績を取っていたんです。だけど、できるのが当たり前なので誰も誉めてくれない。むしろ点が低いと怒られる。

お芝居は、自分にとっては遠い世界でしたが、小学6年生のときの学芸会で、たまたまやった演技で拍手をもらって「お芝居が上手ね」って言っていただいたんです。仲の良くなかった女の子の親御さんが「緒方さんって、お芝居が本当に上手なので、仲良くしておいたほうがいいんじゃない?」と言ってくれたらしく(笑) その子たちが、ごめんねって謝りにきてくれたんですよ。

そのとき、あれ? 何やっても誉められないのに、お芝居なら誉めてくれて、友達もできた。「エヴァに乗ったら、誉めてくれた」みたいな感じで、自分の深層意識のどこかにスイッチが入って、こうなったというところがあるので……。

誉めてもらえるから、上手だねって言ってもらえるからエヴァに乗ってみたけど、でも乗ったら苦しいこともあるし、いやなこともいっぱいあるし。戦ったら痛いし、死ぬかもしれないし。

辛いって思う場面は仕事をしていればたくさんある。仲間だと思っていた人が、ある日突然離れていくこともあるし、亡くなってしまうこともある。「あれ? どうしてみんな、行ってしまうの?」みたいな。そういう全ての経験が『エヴァ』っぽいなと。

 

 

14歳の期待と苦悩の葛藤。

―― 緒方さんの14歳は、どういう14歳でしたか。

緒方 体育会系の部活をしてる、普通の中学生でした。

―― わりと健康的な日々を? 田中さんの14歳は?

田中 一番楽しかった思い出がありますね。いまも会う友達は、中学の同級生がほとんどです。

―― 内にこもるようなこともなく?

田中 僕はちょっと人見知りなところがあるんですが、当時はまだ明るくて、周りの友達と喋るタイプだったと思います。

緒方 中学生のころは、もう大会には出ていたんですか。

田中 もちろん、すごく出ていました。学校も早退して、自分のやりたい気持ちだけで突き進んでいました。親にお願いしてフィギュアを続けさせてもらっている感覚は既にあったので、いつも不安定でした。

緒方 フィギュアスケートって、すごいお金がかかるんですよね。

田中 それなのに本当に僕の家は一般家庭で、正直、辛かった。それでも自分のなかでやめるという選択肢だけはなかったんです。

―― 中学生にそこまでさせるフィギュアスケートの魅力って、なんだったんでしょうね。

田中 シンジくんはやらされているけど、僕はやらせてもらってた(笑)
アイスショーにも出してもらえるようになって、やっとこの年になって自分で稼げるようになり、ようやく心が解放されて、いまのびのびとスケートをしてる感じですね。生活も自立できていますので、精神的にも安定しているのですが。

緒方 それなのに、新型コロナのせいで。

田中 僕はいろんなものをけずって練習をしていたわけですが、シンジくんは、逆に恵まれているから愛されていない、甘えたいとも思ってしまうのかな……。僕は親への反抗は甘えからきていると思っています。

ただ25歳のいま考えても、14歳の本当の気持ちはわからない。僕はいま一人で立てていますから。一人のほうが安定している。ただ言えるのは、14歳には誰かが必要だということ。

―― フィギュアスケートと『エヴァ』とアニメがあったおかげで、今日があるという。

田中 練習から家に帰って、漫然とテレビを見るより、僕はアニメを見るほうが好きだった。

練習は毎日しないといけないもので、サボりたい気持ちには到底なれないんです。調子が悪くても、ひどいスランプに陥っても、辛いことがあっても僕は切れることがない。自分に怒りを覚えることはあっても、我を忘れられない。他人のせいにしたいけどしても惨めだし、それでは解決しないから。

アニメはスケートとはかけ離れている存在で、すっと入ってくるものだった。けして現実逃避というわけではなく、アニメも精一杯真剣に見るんですけど、息苦しい日々のなかで、救われたというところはありますね。

―― いまは合体させようという方向にいっている?

田中 どんどん自分というものを出したくなって、もっと好きなものをスケートと絡めたくなっちゃった。自分の≪好き≫をスケートで表現してみたい、そういう想いが湧き出てきました。

 

『エヴァンゲリオン』 緒方恵美×田中刑事 スペシャル対談

 

『エヴァンゲリオン』緒方恵美×田中刑事 スペシャル対談 4へつづく


 

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