対談・インタビュー

  1. TOP
  2. スペシャル記事
  3. 対談・インタビュー
  4. 『エヴァンゲリオン』 緒方恵美×田中刑事 スペシャル対談 4

『エヴァンゲリオン』 緒方恵美×田中刑事 スペシャル対談 4

対談・インタビュー

時代を超えて、なぜ『エヴァンゲリオン』の世界に、14歳の碇シンジに、少年少女はシンクロするのか――
演者が、キャラクターに自己を投影して、視聴者と共感し合う、表現する意味と創作の核心に迫る、2時間10分の超ロングインタビュー、最終章。

司会=佐川俊彦(京都精華大学マンガ学部准教授)

 

どこかではずっと自分で選んだ曲でやってみたいと…

『エヴァンゲリオン』 緒方恵美×田中刑事 スペシャル対談

 

―― 田中さんは、競技用の曲の選定は、いままで先生にお任せしてきたそうですね。

田中 エキシビションの曲は自己満足でもいい、好きなものをやってみたいから、自分で選ぶことも多いんですが、競技用のプログラムは客観視した目線がほしくて、振り付けの先生にお願いしてきました。

自分で選ぶと自分っぽすぎて、すぐ馴染んでしまうんです。入り込みやすすぎて飽きちゃう。でも振り付けの先生からいただいた曲だと、自分が滑っているのを想像できない曲なので理解しようと、練習していても楽しいんですよね。滑り込む価値もありますし、新しい自分を発見し、成長につながるとも。
でも、どこかではずっと自分で選んだ曲でやってみたいと――

『美少女戦士セーラームーン』の曲を、ちょうどメドべージェワ選手がエキシビ用に作っていて、僕、ちょっと先越された、と思っていて。日本人で、日本のアニメなのに、外国の選手に先に取り入れられちゃって、負けたなって感じもしましたね。そのあとに『ジョジョの奇妙な冒険』を作ったわけですが。

緒方 『ジョジョ』は良かった。しつこいですけど(笑)

田中 いえいえ。『エヴァ』の曲もずっとサントラで聴いているので、すごく好きな曲が多くて。特に『ジョジョ』をやってから、よけいにアニメの曲をスケート界にも広めたいと思うようになりました。
そんなときに、『シン・エヴァンゲリオン劇場版』で流れてるBGMを聴いて、「あ、これで滑りたい」と思って。

緒方 どれ?

田中 一番最初の、マリが戦闘してる、バチバチのシーン。『シン・エヴァ』の最初の10分のほうの……。
*『シン・エヴァンゲリオン劇場版 AVANT1(冒頭10分40秒00コマ)0706版』

緒方 新しすぎません?(笑) まだ、ハイレゾ配信しか出てない……。

田中 『シン・エヴァ』のその曲を聴いて、「絶対、この曲滑りたい」と思ったんです。「あ、もう絶対この曲で滑りたい」って。
その曲を聴いたら、エキシビはちょっと違うって。自分の本気を示すためにも競技プログラムのほうが。しかも現役で。

緒方 え! 競技でやってくださるんですか。

田中 もう、競技プロでやらないと意味がないなと、直感で。

一同 ええ……!!

田中 で、もう作ったんです。

一同 えええ!!!!

田中 もちろん世にはまだ出せないんですよね。やっぱり映画が上映されてから、僕は滑りたいって、意志が強くて。

緒方 早く、早く、上映しなきゃ。

田中 僕は全然いいんです。待ちます。
じゃあ、どこでやるってなったら、やっぱり現役でやりたいと。誰のためでもない、自分のために。新幹線で移動中にたまたま聴いて、「絶対、これで滑る」って。

緒方 (エヴァスタッフに)どうですか。

一同 (ざわめく)

 

 

『エヴァ』は僕に挑戦し続けるチャンスをくれた。

田中 それが去年の7月。でももうそのシーズンのプログラムは作っていたので、じゃあ、来季かなと。やってやろうって決意したのが、『シン・エヴァ』のBGMがきっかけ。そして、それが今季なんです(コロナで来季に延期)。

緒方 ありがとうございます。

田中 まだまだ僕が挑戦できるんだっていうチャンスを『エヴァ』にもらったのかな。

―― 田中さんは25歳。今年25周年記念の『エヴァ』と共に生まれ、育ってきたという奇妙な符合も。

緒方 田中さんの人生を『エヴァ』が変えてしまったんでしょうか。

田中 もう振り付けも作っているので。
結局、コロナの影響で延期することになりましたが、今季使えなくても1年間しっかり練習しておけば、来シーズン、もっと深いものになる。『シン・エヴァ』が延期するなら、僕はもっと滑り込めるとポジティブに考えています。でも絶対使ってやろうって、野望を抱いています。

緒方 ぜひ拝見したいです。

―― 前打ち合わせでは、いままで自分っぽすぎる音楽を競技には避けてきたからこそ、あえて競技でやってみたいとも。

田中 あとは話題性もあります。不思議なことにフィギュアスケートは現役のスケーター、しかもアイスショーよりも競技のほうが注目されるんです。試合で一番見てもらえるのがクリスマスにする全日本選手権だと思うので、そこで滑りたいという想いも強くて。だから、現役。しかも競技用でないと。

―― 競技用でアニメの曲、いままでなかったんじゃ……。

田中 競技用はないですね。エキシビでは『千と千尋の神隠し(2016年)』と『ジョジョの奇妙な冒険(2018年)』をやってるんですが。 『エヴァ』の音楽を作曲している鷺巣詩郎さんが僕好きで、いつか滑りたいと思っていたんですが、ピンポイントで、これはいい、絶対使える。これはいける、と思って。

ただあの曲(「11170 CH edition 0706」)は、パッと見では『エヴァ』とわからないですよね。エキシビなら『残酷な天使のテーゼ』でやりたい。インパクトがあって、初見でパッと『エヴァ』ってわかりやすいものをやりたい。そっちも作りたいというのがあるので、それはそれであたためて、先に試合用を。『シン・エヴァ』の映画があるなら同じタイミングでぶつけようと。

緒方 本当にすみません。遅くなって。

田中 いえ、全然待てます。

『エヴァンゲリオン』 緒方恵美×田中刑事 スペシャル対談

 

 

『エヴァ』は当たり前の感情を拾っている。

―― おふたりには、あらかじめ質問状をお渡ししてあるんですが、なかでも田中さんが一番答えに窮したという、最後の質問、≪少年の心≫とは?

緒方 このなかでは一番少年に近いのに(笑) 少年に近い青年じゃないですか。

田中 質問状にあったので、すぐググって、「どういうことだろう……」って。

緒方 ググったんですか!(笑)

田中 ググっちゃったんですけど。でも、あんまりいい答えがないなと思って。
自分では≪自由≫だと。素直でピュアだからこそ、吸収力が高い分、良くも悪くもいろんな方向にいきやすい。いろんな環境に影響されやすい。

―― 成長の余地もある。

田中 たとえば不良の子とつるんでいると馴染みやすいですし、環境によって立派に育ったり、どちらにも傾きやすい。中学生ってそういう年頃だと思うんです。

しがらみもないから、発想が夢に満ちあふれてもいる。それがユーモアや想像力、創造力、遊び心にもつながる――その点ではシンジくんに少年の心って感じづらくて(笑) 辛いことが多すぎて自由にできないのかな。でも『:破』には平和なシーンも多くて、そこだけでもすごく癒やされますね。

緒方 水族館の場面もね。ああいうのも本当に楽しかったんですけど。

シンジはお母さんが死んで、お父さんはずっと帰ってこないし、誰かわからない先生に預けられ、そこで処世術として、なんとなく人の顔色を窺っているような子どもに育ってしまった。ある日、いきなりお父さんに「来い」としか書いてない手紙をもらうわけです。

行ってみたら巨大な怪獣みたいなものが突然現れて、車ごと吹き飛ばされるような怖い目にあう。お父さんの会社では大人たちに囲まれて、突然、「お前がロボットに乗って、あの怪獣と戦う」と言われたわけで。「無理だよ、そんなの!」ってなるのは当たり前だよね。そんなの無理じゃん。だってロボットを動かすこともできないのに。

エヴァがやられると、私自身と神経回路がつながってると思って演じてくださいと言われていたの。たとえば目を貫かれたら、私の目が貫かれたと。本当に辛かった。そんな痛い目にあって、気づいたら病院にいて知らない天井だった。そしたらまた戦えって――そんなのできないよって普通なるでしょう。

田中 無茶ぶりばっかり。

緒方 それまでのアニメは、「オレがロボットに乗って、地球の平和を守るぜ」みたいな主人公が多かったわけだけど、シンジはそういうスーパーマンではない。でも、それが当たり前……。『エヴァ』は特殊な世界設定ですけど、当たり前の感情を丁寧に拾っているにすぎないんです。

それはキャラクターの心情だけでなくて、映像の一つ一つのディティールにもこだわっているから見えてくるもの。たとえば庵野さんの描き出す画面には電線や電柱が印象的に出てきますが、電線や電柱を研究し尽くして描いているスタッフさんがいるわけです。

そういうものを省略するんじゃなくて、ひとつのキャラクターとしてきちんと丁寧に作り込む。手を抜かず、全部を丁寧に追っているので、作る人たちはみんな大変ですけど、それは熱量が違って当然だと思います。

 

 

少年の心とは、むきだしの心。

―― 緒方さんにとっての≪少年の心≫は?

緒方 少年の心……アホってことですかね(笑)
女子は物心ついたら「女」ですから。男の子はいつまでたってもわかんないですよね。ずっと「うんこ」とか言ってるし、大好きだし、永遠にたぶん「うんこ」が好き(笑)

当たり前ですけど、人間は生きていくと鎧をつけていくわけです。大人はたくさん鎧をつける。あのときこうだったから、辛いことがあったからと鎧で固めていく。そのときは必要だったけど、いま本当に必要なの? その鎧、いまはいらないんじゃない? というときでも、変化を恐れて頑なに剝がさなかったり。実年齢とか若いとか関係なく、そういう風に鎧っていくことが年老いることだと私は思っています。

だけど14歳の少年は何のガードもつけずにそのまま見る。いろいろ見えてきちゃうもんだからすごい痛い思いをして、衝撃もいっぱい受ける。おっしゃる通り、変な方向にも行ってしまうし、逆の方向にも行ってしまうけど吸収もできる。

つまり、すべてを取り払って、何もないむきだしのまま反応することができて、初めて少年役ができるんだと私は思っています。なかなかそれができないので、少年役をする人が少ないのだと。 真似みたいな感じで、形だけ少年っぽい声を出すことはできるけど、本当に心から反応するには、その鎧を取り外さないといけない。

―― ≪少年の心≫とは、むきだしの心。

緒方 単純に言えばね。その状態を私は少年だと思っていて、自分がそこに戻れなくなったら声優をやめようと思っています。いまはまだギリギリやれている。
私はあまり器用な役者ではないので、それがやれるというところが、強み、もしかすると声優としての、自分のただひとつの価値なのかもしれないとも思っています。

(文責・茅島悦子)

モデル=田中刑事 撮影=鮫島亜希子(nomadica)
ヘアメイク=KOMAKI(nomadica)
デザイン=On Graphics 
衣装、時計、アクセサリー=田中刑事私物
取材協力=カラー、Breathe Arts、東京タワー
企画協力=季刊エス編集部 
企画・構成=茅島悦子

 

プロフィール

『エヴァンゲリオン』 緒方恵美×田中刑事 スペシャル対談 緒方恵美(おがた・めぐみ)
東京声専音楽学校ミュージカル科/研究科ミュージカルコース卒。数々のミュージカルや劇団の舞台を経て、1992年、アニメ『幽☆遊☆白書』の蔵馬役で声優デビューし、ブレイクする。あらゆる役柄を自然体で演じる幅の広さを持つが、なかでも蔵馬に代表される美青年役としての声は、女性声優の新たな活動分野を切り開く先駆けとなった。
艶のある低音から高音まで自由に紡ぎ出す、パワフルでソウルフルな声で、精力的にライブ活動を展開し、近年ではアニメソングやアーティストへの作詞提供も行っている。1994年アニメグランプリ声優部門賞、2012年声優アワード高橋和枝賞受賞。

 

『エヴァンゲリオン』 緒方恵美×田中刑事 スペシャル対談 田中刑事(たなか・けいじ)
正統派のフィギュアスケーターにして、少年時代から親しんだアニメの感性を組み合わせ、独自の美意識を構築。先駆けて、『千と千尋の神隠し(2016年エキシビション)』『ジョジョの奇妙な冒険(2018年エキシビション)』を演じ、現在のフィギュアスケート界のアニメムーブメントも巻き起こした。古典と革新を融合する、彼の揺るぎない表現方法は、多くのスケーターたちに影響を与えている。
2011年世界ジュニア選手権銀メダリスト。2013年全日本ジュニア選手権金メダリスト。2016年、2017年全日本選手権銀メダリスト。2018年平昌オリンピック日本代表。

 

関連記事

 

鷺巣詩郎による
『シン・エヴァンゲリオン劇場版 AVANT 1(冒頭 10 分 40 秒 00 コマ) 0706 版』
使用劇伴音楽(BGM)集
ハイレゾ配信中

e-onkyo/mora/レコチョク/mysound ほか

収録楽曲
1) Herz German from ‘Jesus bleibet meine Freude’
作曲: Johann Sebastian Bach 編曲: 天野正道 鷺巣詩郎
2) 11170 CH edition 0706
作曲: 鷺巣詩郎 編曲: CHOKKAKU 鷺巣詩郎
3) B12 edition 0706
作曲: 鷺巣詩郎 編曲: 鷺巣詩郎
4) EM20 CH alterna edition 0706
作曲: 鷺巣詩郎 編曲: CHOKKAKU

鷺巣詩郎公式サイト

 

新プロのラストポーズ!