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『エヴァンゲリオン』 緒方恵美×田中刑事 スペシャル対談 2

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思春期の彼の心を捕えて、いまも離さない運命の出逢い……。
『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』シリーズ最新作『シン・エヴァンゲリオン劇場版』のBGM「11170 CH edition 0706」を来季の競技用ショートプログラムに選んだ、フィギュアスケーター田中刑事が、主人公・碇シンジ役の声優、緒方恵美と緊急対談。2時間10分に及ぶ、超ロングインタビュー、第二章。

司会=佐川俊彦(京都精華大学マンガ学部准教授)

 

陸のダンサーが氷で踊れないように、僕は氷で踊るようには陸で踊れない…踊りたくない。

緒方 4分間に凝縮するってすごいですよね。そもそも私、あの薄いエッジの上に乗ってジャンプするとか、スピンするとかよくわからないです。だってジャンプするの怖くないんですか!? いや、何もかも怖いですけど(笑)

―― 緒方さん、スケートは。

緒方 ぜんぜん。私、秋葉原出身なんですけど、小学生のころ、後楽園のアイススケートリンクにフィギュアを習いに行っている友達にくっついていって、全然できないんですけど、おそるおそるやってみたくらいです。

―― バレエもやっていらした。

緒方 そのころ、ですが。でもバレエと、あの刃の上でとは違うじゃないですか。だってバレエって足着いてますし滑らないですし。

田中 小さいころから滑って、ようやくジャンプができるようになるんです。難しいことやってるなって自分でも思いますね。

緊急事態宣言でリンクに行けなかったので、1ヶ月2ヶ月ぶりに氷に立ったんですが、ケガしたときよりも滑っていない期間が長かったんですね。ようやく解除されて氷の上に立ったときは、なんて難しいことをやってるんだろうって。

緒方 やっぱりそう思うんだ。

田中 久しぶりにジャンプや、スケーティング……。
スピンすると脳みそが飛んでいきそうなくらい、辛くて。頭痛いんですよ。久しぶりにやると、こんなにきついんだって。ジャンプは最初、周りの選手もみんな悲惨でしたね。

『エヴァンゲリオン』 緒方恵美×田中刑事 スペシャル対談

 

緒方 陸上トレーニングはされていたんですか。

田中 やっていたんですが、氷上だと全く違う。スケートのためにトレーニングしていたのに通用しないというのを、あらためて痛感しました。

緒方 我ら一般人は、3月、4月はジムが営業していなかったので、家の周りを走るくらいしかやれることはなかったんですけど。おうちでトレーニングはされていたんですか。

田中 はい。スケート靴を履いて、1、2時間歩いたりとか。

緒方 歩く?

田中 靴の感覚がぶれないように。それだけでもしないよりはマシというか。家のなかでスケート靴を履いてトレーニングをしてました。

緒方 すごいですね! いまは、少し戻られたんですか。

田中 そうですね。気持ちも滑ってないときより少しは楽になっています。

ただ最後に滑ったのが世界選手権のあとで、ピークだったんですよね。そこからばっさりなくなったので、調子がいいときの記憶で止まってるんですよ。いざ滑るともう、なんて下手くそなんだって。そこから上げていっているので、少しずつしか戻らなくて、ようやく形になってきている段階です。

―― 振り付けや踊りは、あくまで氷上での演技なんですか。それとも踊りは陸でもおやりになる?

田中 もともと人前で表現することが僕は苦手で、陸で踊れっていわれても無理ですね(笑) でも長年滑っていたので、氷上で音楽をかければ感情移入できます。

陸のダンサーが氷で踊れないように、氷で踊る僕は陸では踊れないし、踊りたくない。そこでしか表現する方法がないし、そう思い込んでいるというか。氷上限定なのかもしれないです。
ただ振り付けは覚えていないといけないので、緊急事態宣言の間は、河川敷に行って一人で踊ってましたね。

―― それは見たい気がする(笑)

『エヴァンゲリオン』 緒方恵美×田中刑事 スペシャル対談

 

緒方 振り付けって、どうやるんですか。氷の上ですか。それともバレエやダンスのように、多少は陸上で振り付けて合体するんですか。

田中 振り付け自体は陸ではやらないですね。氷上だけ。

―― それを陸で、河川敷で練習する。

田中 普段でも練習としては、陸でも踊ります……スケートのためなら踊るけど(笑)
今シーズン、やろうと思っていたプログラムがあって、少しでも忘れたくない振り付けだったし、なんならこの時期に感情を込められるように練習しとこうって。

河川敷にはおじいちゃんとか、いろんな方がいたんですけど、イヤホンつけて一人で踊っていました。最初は恥ずかしかったですけど、慣れましたね。踊ってる変な人に見られてるけど、まあいいやって。

緒方 実際には、回ったりはできないですもんね……。

田中 でも、陸でも回転練習ってできるんですよ。2回転とか、3回転とか。

緒方 いわゆるピルエットを回る感じ?

田中 あ、それもやってました。回転練習はジャンプなんですが、跳んで、3回転回って下りるくらいの練習しかできなくて。

緒方 跳んで、3回転回って下りるって……すごい。だってピルエットで3回回るのだって、大変なのに。

田中 ジャンプはそうやってできたんですけど。スピンは氷上では何回転でも回るので、氷に入って、スピンをすると遠心力がすごすぎて、最初、脳みそが吹っ飛びそうだったのも遠心力に勝てなかったからですね。首もやられそうでしたね。

緒方 私、絶対回れないですけど、やったとしたら目が回ってそのままひっくり返りますね。だってバレエで回るより、全然速いじゃないですか。バレエダンサーって回るときに先を見ながらやったりするけど、どういうふうにやったら目が回らないんですか。

田中 えっと……目回ります。

緒方 回ってるんだ!(笑)

田中 久しぶりにやると気持ち悪くて、目が回って。何回も練習して戻さないといけないです。

緒方 以前、テレビの企画で安藤美姫さんが、ずーっと回る台の上に乗せられて、どこまで回ったら目が回るのかという実験をしていて、千回転して平気って歩いて行かれて。それも慣れるものなんですか。

田中 僕もその番組は見ましたが、練習を普通にやっているときならいけそうな気がします。久しぶりにやるとキツいんですけど、慣れですね。三半規管が、たぶん、鍛えられます。

 

 

キャラクターの気持ちになると、勝手にそういう声になる。

―― このCD(『緒方恵美 Christmas Rose 2007 ~Acoustic Live~』)をお聴きしたんですが、高い美しい声で歌ったり、曲ごとに世界観を変えていらっしゃる?

緒方 古いCDをありがとうございます(笑)
『幽☆遊☆白書』でデビューしてすぐ、『美少女戦士セーラームーン』に出ることになったころの、楽曲ばかりのライブCDですね。当時、その2作品がビッグヒットになったために、すぐに声優グラビア雑誌が立ち上がって、いまみたいに歌とラジオ、グラビアとライブで生きる声優という流れができたんですね。その先頭に私がいた感じなんですけど。

私の家は音楽一家で、素人ですが、もともと好きで曲を作っていたんです。だからこそCDの話が最初にきたとき……生意気なことを言うようなんですが……自分の作った曲が良いのでCDを出しましょうと言われたわけではない、という意識が強くて。 声優でキャラクターが人気だから、そういう感じの歌を聴きたいってことですよね、という気持ちでいたんですよ。なので芝居をする感じで、小技がきいた、高音で歌うお姫さまのような曲を混ぜてみたり、口がくさりますけど、アイドル的な感じで?(笑) バックダンサーと一緒にやるコンサートをしたりしていたんですね。

ですが途中から自分の声ではなくて、それっぽいストーリーをそこでも演じていることに、「もう、なんか嫌だ」となってしまって。いまは、もっとストレートな歌い方をして、メッセージ性の強い歌詞を書いているんです。だからこのCDのころとはちょっと違う感じですけど。

―― いまお話しされていても、シンジくんの声ではないですね。

緒方 いろいろなやり方をする役者さんがいらっしゃいますので、他の方もということではないんですが、私の場合はキャラクターの気持ちになると、勝手にそういう声になるんです。だから突然ここで、「シンジくんの声で話してください」と言われると、たいがい下手です(笑) 自分の芝居の真似みたいになって。

昔、お酒の席で、酔っ払った某テレビ局のプロデューサーさんが、「ちょっと、電話でてくれ」と言うんですよ。「どうしたんですか」って訊いたら、「あのね、こいつがすごい『エヴァ』のファンで、いまねシンジくんのものまねがすごい得意な人と一緒に飲んでるから、って言ってあるから。悪いけど、ちょっと喋ってくれる?」って言われて。

「あ、こんにちは、碇シンジです」みたいに喋ったんですけど、電話の向こうで爆笑されて、「確かに雰囲気は似てるけど、本物には遠く及ばないね」って言われちゃって。焦ったプロデューサーさんが「ばか、本物だ!」みたいになって(笑) 突然やれと言われると、自分の真似みたいになっちゃうんですね。

―― 昔、宮崎監督が色紙にナウシカを頼まれたところを見たのですが、ご本人が嫌がって隠しながら描いて。流れがあって描けるので、いきなりただ描いてと言われてもできない。

緒方 庵野秀明さんは、いきなり『ヤマト』を頼まれても、すごいサラサラ描いていましたね。好きだからかな。でも庵野さんはメカを描く方なので、人間のキャラクターは描いてくれないんですけど。

田中 へえ。

緒方 エヴァ初号機とかはね、サラサラっと。
『ナウシカ』といえば、巨神兵は庵野さんが描いていたんですよ。『エヴァ』のテレビシリーズのころ、一緒にご飯を食べに行ったときに、オウムの足みたいなのを、コースターの裏にすごく細かく描かれて、「えーっ」てびっくりしたこともあります。

『エヴァンゲリオン』 緒方恵美×田中刑事 スペシャル対談

 

 

キャラクターになって滑るほうが、僕はやりやすい。

―― 田中さんは演じられるときは世界観を表現されている? それともキャラクターを演じている?

田中 誰かを意識して、キャラクターになって滑るほうが僕はやりやすいかな。だからクラシックだと想像しづらいですね。もちろん自分で何かストーリーを作って、それを表現することはできますけど。

緒方 『ジョジョ』は『ジョジョ』でしたね!(笑)

田中 『ジョジョ』は……そうですね。『ジョジョ』は『ジョジョ』です。

緒方 しつこくてごめんなさいね。『ジョジョ』は本当に感動したので。

田中 あれはもう原作通りやりたかったんですよね。衣装も自分のアレンジなんて一切いれずに、アニメーション通りに作ろうと。ファンの方も受け入れてくださったので、ちゃんと成功したのかなって。

―― ちょっと二次創作的というか。

田中 アニメや映画の曲なら主人公の気持ちになって……だと表現しやすい。それが結果、二次創作的になるのかな。

緒方 二次創作っていうのだろうか。メディアミックス的な立派な一次だと思いますけど。

―― 自分で別者になったって思いながらやることもある?

田中 フィギュアって、僕の感覚だと、曲をどこからか借りてるイメージなんです。映画だったりドラマだったり。クラシックもそうですけど、もとがあって、それを使わせていただいて僕らが滑るって感覚ですね。そのなかでの表現となると、作品を理解して自分にあてはめることしかできない。

 

 

女性で少年を演じて。

―― 緒方さんは少年役が多いですよね。少年を演じるとき、女性役とは何か違いがありますでしょうか。

緒方 少年だから、女性だからということはなく、芝居をしているときはその役でいるだけなんです。それに自分のなかの一部でしか、どうせ芝居なんてできない。違うものになんかなれないので、どれも自分自身ということもできます。

―― 昔から日本では、少年の声を女性がやることも多いですよね。男のなかに女がいて、女のなかに男がいて、それが当たり前というか。もとよりジェンダーが混乱していた。

緒方 いまの時代のほうが、よりナチュラルなんじゃないでしょうか。いろんなタイプのジェンダーがいるとわかってきているので。男性のなかにも女性的なところはあるし、女性のなかにも男性らしいところはある。その比率と配分が、人によってちょっと違うだけ。

演じることで言えば、田中さんも女性の役でスケートをしてくださいと言われたら、きっとおやりになれると思うんですよ。宝塚だってそうですし、昔から歌舞伎だってあるわけで。どこを抽出して演技をするかというだけの違いなのかなと。

『エヴァンゲリオン』 緒方恵美×田中刑事 スペシャル対談

 

―― 田中さん、ブルゾンちえみ、やりましたよね。

田中 遊び半分で、アイスショーで、メイクして、ブルゾンちえみさんの格好をして、女装して。

緒方 後ろに二人つけなきゃダメじゃないですか(笑) もうちえみちゃんは引退してしまったけど。

―― お腹に「35億」って書いて、ちら見せする。

田中 アイスショーで、ちょっと遊んじゃいました。

緒方 アイスショー、面白いですよね。

田中 試合とは別で、自由なんで。

―― 女王様みたいに、足を交差させ……。

田中 そうですね。椅子に座って、こう出てきて。

緒方 それはぜひ見たいです。

田中 できれば映像が残っていないと嬉しいんですけど。自分のなかでは黒歴史だと思ってるんで。

緒方 そうなの? それはそれでいいじゃないですか。

―― 紺のストライプのシャツで。おかっぱのかつらをかぶって。

緒方 マジですか。

田中 コスチューム買いに行って。ショーの直前に買いに行ったんで、もう、これでいいやと思ってしちゃいました。

―― 太ももがスカートに入らなかったという(笑)

緒方 それは、仕方がないですよね。アスリートですから。

―― 女性の役で、フィギュアスケートをやってみるというのはどうですか。

田中 うーん……、そうですね。悪ふざけのレベルまでいくなら、思い切ったことができるんですけど。

たとえば競技で競うとなると、どのレベルまで落とし込めばいいのか悩む気がしますね。いくらがんばっても僕しか出ない。女性になりきれって言われても限界があるし。

緒方 皆さん、だから割合の問題で、ここら辺までならできるというのはおありだと思います。個人的には、私は少年役のほうが楽です。

ジェンダー的な話をすると、いろんなところで不思議な取り上げられ方をされるので微妙なんですが、もともと中身は大分男性寄りだと思うので、それで少年役が多いんだと自分では解釈しています。女性役で、ベタベタな恋愛を演じる機会は滅多にないんですけど、たまにあると本当に辛いって思う(笑)

あと、男役と女役で決定的に違うのは、たとえば自分が女性役だとして、相手の男性役と恋愛の芝居をした場合、しばらくたって別の現場で、その男性と会っても、私は「あ、おはようございます」って普通なんですけど、自分が男性役で相手役をやった女性の声優さんが、違う現場で「あ、おはようございます」ってくると、「あ……おはよう……ございます」みたいな感じで、ちょっとまごついてしまうんです(笑)

これはきっと、女の人は新しい彼氏ができると元彼のことはすっぱり忘れて次の恋愛にいくけど、男性はいつまでたっても元彼女に会うと、「あ……」となるみたいな?

―― 上書き保存と、別名保存と。

緒方 そういうハートになってるときは、そういう風になるんだなと。自分の挙動不審さを冷静に見て、「なるほど!」と、それも肥やしにして次へ行くっていう。
どうでもいい話になってる。全然『エヴァ』の話、してない(笑)

―― いえ、けっこう重要なお話だと思います。

 

『エヴァンゲリオン』 緒方恵美×田中刑事 スペシャル対談

 

『エヴァンゲリオン』緒方恵美×田中刑事 スペシャル対談 3へつづく


 

 ちょっとブレイクタイム 

『エヴァンゲリオン』 緒方恵美×田中刑事 スペシャル対談

『エヴァ』でもっとも忘れられない場面は、『:破』の初号機覚醒のシーンです。テレビシリーズのシンジくんは「動け動け」ともがいていたけど、『:破』では「綾波を返せ」と一瞬で覚醒するのに、初めて見たときには鳥肌が立ちました。

僕が望んでいるのは、一刻も早くシンジくんに日常が戻ってほしいということ。シリアスなシーンのなかにある日常的な一コマを見ると、安心して心がほっこりしますけど、また使徒が来て大変な目に合う。予測できない設定、展開がたくさんあって、それを考察することでより作品にハマっていく。

ロボットアニメなのに妙に人間味を、リアリティを感じて。
キャラクターにそれぞれ違う背景や心情があって、誰でもどのキャラクターかには共感してしまう気がする。

(文=田中刑事)

 

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