季刊エスバックナンバー vol.3 『森倉円×米山舞』対談 〜後編〜

森倉円W記念!
『森倉円×米山舞』対談 〜後編〜
待望の画集第2弾『Prism 森倉円作品集』発売&季刊エスVol. 90 描き下ろし表紙&巻頭特集決定を記念して、2023年9月発売の季刊エス Vol. 83 にて掲載された、「森倉円×米山舞」イラストレーター対談記事を公開いたします。大人気イラストレーター同士の豪華対談を、この機会にぜひご覧ください!
前編はこちら:https://www.s-ss-s.com/c/sssbn-moriyone01
現在の創作シーンにおいて、「愛らしく癒される女の子を見せる美少女イラスト界」の名手とされる森倉円。
そして、「先鋭的な表現と野心的な展示活動をするアーティスティックな潮流」の代表とされる米山舞。
二人はエリアが違うと思われがちだが、そういった表層的なカテゴリーではなく、もっと奥深い表現性を見れば、大切なテーマ性に気付かされる。絵の生命感である。
可愛い女の子の絵はたくさんあるけれど、その子と一緒にいるような心地よい親しみの実感を抱けるのが森倉円の魅力。
また、流線や飛沫といった抽象が、人物の動きと絡み合って感情やエネルギーを伝えるまで高められているのが米山舞の凄さ。
多様なイラストがあふれている今だからこそ、軽い印象で区切るのではなく、深層の表現性を味わいたい。
そこにこそ、絵が伝えられることの可能性や楽しさがあるように思える。今回は以前より友人同士の二人にお話いただき、先述したシリアスな話題だけでなく、力の抜けた和やかさも感じてもらいながら、絵描きの楽しさや交流の様子をお届けする。
左:『金魚メイド』 / 森倉円
右:『RAY - DAWN』/ 米山舞
─アニメ業界もスーパースターがいっぱいいて、「憧れる」とかの話題はあるでしょうね。
米山:
アニメは師弟っぽい関係性がなんとなくあるので、あえて「好きです!」と言っても仕方がないところがあるんです。
静かにリスペクトの念を送りながら、自分の創作で認めてもらうという謎の文化があります。
すごい人には、その人から自発的に認識してもらえた方が気持ちが良いじゃないですか。…という謎の意地(笑)! そうではない人も全然いますけど。
─「エス」の読者は米山さんに憧れている人が多いです。もはや近づきがたい印象もあると思います。遠い存在というか…。
米山:
でも私は、宇宙人感はないと思う。
森倉:
うん。話すとめちゃくちゃ人間味あると思う。
米山:
何だろうなあ。結構、普通の人なんだよなあ。怒りの感情とか悲しみの感情とかも、普遍的なんですよね。
森倉:
すごく自分と向き合いまくってるから! とりあえず、話してみて「怖い」という印象はないと思う。
あと、人の話を聞くのが本当に上手いです。「人間が好き」というところから来ているのかな、と思う。
米山:
だと良いな。本当に人が好きですね。私は人から憧れられたいというよりは、「違っている」ことが好きで。
音楽でも詩でも学問でも、全然違うことをやっている人に対して、自分が出せるものを持っていないと恥ずかしいな、と思うんです。
自分なりの言葉みたいなものを作りたいと思って絵を描いている。何十年間か絵を描いているから、それで及ぼせる影響がどんなものかに挑戦したいと思う。
これしかないのだから、私が人に及ぼせる影響や私が人から受けた影響を、絵でしっかり語っていきたいと思いますね。
なんか真面目だな。
─好奇心が強いんでしょうね。そうすると寺山修司みたいに、いろいろやりたい気持ちはないんですか? 最初は歌人だったけれど、演劇もやるし映画もやるというあのスタイル。
米山:
表現にボーダーはないというあり方ですね。自分の興味の向いたものはいろいろやりたいです。
ただ、「違う分野の人を引き込みたい」という気持ちがあるんです。人は感性があれば、何でも反応出来ると思います。
だから、「見識を広める喜び」を押しつけたい。「こういうものがあってさ」という風に伝えて、別のものを好きになってくれたら嬉しいという気持ちがあるかもしれない。
森倉:
めちゃくちゃ良い。めちゃくちゃ生命力があって、引力みたいなものがあるから、すごく楽しそうです。周りの人も楽しいと思う。刺激されたい人は多いでしょうね。
みんな、ワーッとなりたいけれど、ワーッとする仕方が分からない人もいるでしょうから。
米山:
あと、歳を取ると興味の対象も変わってくるんですよ。
やっぱり美術に触れたり、好きなものに触れると、自分は何に挑戦したいんだろう? どこで生きていきたいんだろう? 新しく開拓するのは面白くないか? と思う。
自分たちのジャンル、アニメや漫画、イラストの影響範囲や効果範囲はどんなものなんだ? と思った時に、自分で確かめずにいられないんですよね。
森倉:
今回の対談で、エス編集部さんが米山さんと私の何が共通していると考えて下さったのか気になっています。
まだまだ、表現できていないんですが、学生時代、実験などで、反応した時の薬品の色や顕微鏡で見たものが綺麗だな、と思うことがあったんです。
今でもそういった感覚でものを見てしまうので、「他の人が綺麗だと言っているものだけが綺麗なわけじゃない」と気づかされる。
私たちが似ているとしたら、そういう好奇心みたいなものがあるところかもしれません。
─そういう発見を生かせるのが絵ですし、表現の醍醐味でもありますよね。
米山:
共通点と言えば、自分がそうというのはおこがましいけれど、円さんには品性があると思う。
森倉:
なるほど。一般的には汚いものにも品を感じる時があるじゃないですか。「汚いで終わりたくない」みたいな感覚はある。
だから、米山さんがごみ袋をモチーフに使っていた時も綺麗だった。汚れていたりしても、「汚い」で終わらないですよね。「こういうのも美しいよね」と投げかけている感じがすごくする。
最後のお皿の載せ方が似ているのかもしれない。 「品」というと、緊張するけど。

米山:
そうね。自分で言っちゃうと、もう終わりなところがあるからね(笑)。
森倉:
下着のおねえさんを描いた時に、そういう受け入れられ方をしていたような。
米山:
だよね。円さんのランジェリー本は、結構ドキドキするな、と思って見ていたんですが、やっぱりちゃんと品を残すんですよ。
森倉:
自分のできるラインが「あそこまでだな」と思った。自分がどんな風にこういうジャンルを描けるか試した結果、ああなった。
─私が思う、米山さんと森倉さんの共通点は「生命感」だと思います。
表現は違うんですけれど、お二人の絵にすごく生命感を感じます。
米山さんは、流れを感じる構図やポージングの効果も相まって、動きだしそうな生命感を感じます。森倉さんは女の子が「そこにいる」臨場感があるんです。受け入れてくれる瞬間が体験できる感じ。
そう考えると、お二人の表現は違うように見えるのに、根っこに強烈な生命感があるんですよね。絵を見る時に、作家のタイプやカテゴリーで区分けする人がいますけど、本当はそうではなく、奥にあるものを受け取って欲しいと感じます。
生命感というのは絵の魅力の根本なので、それをお二人が違うアプローチで実現できているのが、今の時代として素敵だと感じるんです。
森倉:
自分では自身のことはよく分かっていないですが、米山さんの話を聞くと、「めっちゃ分かる~!」と思うことが多いです。
米山:
でも、その生命感を下支えするのは、やっぱり技術もあると思います。
円さんは、医療行為からつながるような、人体や人間への理解があると思うんですよ。
森倉:
中身のことを考えるのは好きですね。
描いている時に、自分の脳内設定は結構細かいかもしれない。画面には出てこないけれど、「この子がこういう服を着ているのは、こういう子だから」みたいな。
内面が見た目にもにじみ出ると思っているので、無意識に自分の中で辻褄が合うところまでは設定しているんだと思います。
私が、「ここにこれをつけたい」と思ってつけることもあるけれど、「この子はこういう子だから、これをつけるよね」と感じて描く場合もあります。
─それはその子がもう生きているからだという気がします…。命を感じ取るというか。米山さんは生命感についてはどうですか?
米山:
私はアニメーターなので、その出自を生かさないわけにはいかなくて。
アニメーター時代に、そんなに自分の感性を磨いていたわけではないですけど、やはり動きや画面作りの気持ち良さ、柔軟さのようなものに対して、先輩方の凄い絵を見れた機会があったのでその影響はあります。
あと、自分の絵の特徴としては、「すべてが同じ時間帯ではない」というのがあります。
一枚の絵の中に、時系列の違う部分が混ざっている。だから、絵だけれどアニメに見えるという効果を狙っています。少し変えるんです。ちょっとした不思議体験を作り出しています。それが「生命感」につながるかどうかはわからないけれど。
あと、「人間がやわらかい」というのは好きです。ぐにょぐにょ曲げたいし。
森倉:
めっちゃ生き物! という感じがする。
米山:
「状態」は意識します。
何も起こっていないプレーンな状態も好きですが、何かに押されて歪んでいるとか、状態を感じる瞬間を描きたくなりますね。
森倉:
そういうのってすごく印象に残りますよ。
米山:
でも、これは「状態」であって「個性」ではないから、みんなも同じように描けるとは思います。
髪がバサッと動いているのと、ストンと落ちているのでは、同じ髪の長さでも違って見えますよね。髪の動きは私があまりにやるものだから、それが「個性」に見えるかもしれないけれど、実際には「状態」なんです。
まぁ、結果的にそれが「躍動感」になるのかな。
─その「状態」も、人物が生きているときの特徴だから、生命感につながると思います。さて、本日はお二人にいろいろと伺えました。最後に、お互いにエールというか、コメントをいただけますか?
米山:
自分の作品を発表し続けることって、時には迷いも出てくると思うんですよ。
いろいろ素晴らしい人がいて、ショックや影響も受けてしまうだろうし。
でも、円さんはブレずに可愛い女の子を描き続けてくれている。円さんがそれをやってくれている限り、私は勇気をもらえる。だからありがたい存在だと思います。
森倉:
ずっと実験期間中ですが、「可愛い女の子」って強いんだなって思っています。
米山:
すごく助かる存在ですよ。
森倉:
そんな感じだったの?
米山:
可愛い女の子をありがとう!
森倉:
「そっちで好きなことをやってくれているから、こっちも好きなことしよう」の一つではあるのかな。
米山:
そうだと思う。「いつも見ています!」ということで。癒されてますよ。
森倉:
いや、でも可愛い女の子はいっぱいいるからね。
私が描く意味は何だろう? と思いながら描いている。
米山:
森倉円が描く可愛い女の子が特別。誰が描いても同じではないから。その解釈がモロに出ると思うんですよ。
「唇がプルプルだー! 触りたーい!」とか。

左:『Odd eye』/ 森倉円
右:『RABBIT』/森倉円
森倉:
材料自体は分かりやすいと思うよ。要素としては単純だから真似しやすいと思う。
でも、私にしかないバランスがあるのならば、引き続き描こうかな…という感じ。
で、米山さんには本当に楽しく、好きにやって欲しい。それを後ろから眺めていたい。米山さんの時間を、米山さんがやりたいことに費やしてくれたら、私はそれを勝手に眺めて幸せになる。
私は米山さんの「原液」を浴びたいんですよね。引き続き浴びたい。
米山:
引き続きがんばります。ありがたや。
森倉:
存在してくれてありがとう的な。絵描きはみんな、各々の神社の神様だと思っているから。
米山:
今度、男の子を描いて欲しい。
森倉:
たまに描くとさぁ、女の子を描くよりも、自分の好みが入りすぎて恥ずかしいのよ!
米山:
分かる。恥ずかしいよね。女の子より如実に出るから、「うわ、こういうのが好きなんだ」と思われるのが恥ずかしい。
森倉:
女性が描く男性を女性から見ると良さが分かりすぎるから、「ありがとうございます」じゃない? もっとください! じゃないけれど。
でも、男の子に限らず、照れていてはダメだと思う。照れたり、カッコつけたりすると、薄まるものがあるから。そんな自分に負けないように生きていかないと!
─森倉さんの好みの男の子は気になりますねえ。
森倉:
何それ、恥ずかしいんだけど。
米山:
ごはんがすすむよー。
森倉:
でも、やっぱり描いていないから難しいと思う。とりあえず技術が伴わないと…。そう考えると、まだまだ出来ることはあるのかもしれない(笑)。
米山:
楽しみだー。
左:『appeal1』 / 米山舞
右:『appeal4』 / 米山舞
─男の子の合同本を出したら良いんじゃないんですか? 一人だと恥ずかしいなら。
森倉:
確かに、勢いは必要かもしれない。
米山:
以前望月けいさんと出したことがあるんですよ。そしたら、やりましょうかね。よし、企画しまーす(笑)。
今日は楽しかったです。円さん、また話しましょう。
森倉:
ゆるいごはんでも。
米山:
カラオケも行きましょう!
─お二人ともたくさんお話くださって、ありがとうございました!
対談前編はこちら
作家プロフィール
森倉円(Morikura En)イラストレーター。バーチャルタレント「キズナアイ」、『創彩少女庭園』、『プリマドール』(箒星)、『PROJECT IM@S vα-liv』、『LOOP8』などでキャラクターデザインを務める。『ポケモンカードゲーム』をはじめ、ゲームのイラストや小説の挿絵も多く手掛けている。作品集に『ILLUSTRATION MAKING & VISUAL BOOK 森倉円』がある。
X:https://x.com/morikuraen
米山舞(Yoneyama Mai)
アニメーター、イラストレーター。『キルラキル』、『キズナイーバー』、『プロメア』、『サイバーパンク エッジランナーズ』などのアニメーションに参加し、Eveの楽曲『レーゾンデートル』、『YOKU』のMV制作、アパレルではRADIO EVA、Ground Y、カネボウ化粧品「KATE」のパッケージなどで活躍。作品集に『EYE YONEYAMA MAI 米山舞 作品集』がある。
X:https://x.com/yoneyamai
◆森倉円第2弾画集『Prism 森倉円作品集』4月24日発売!
書籍詳細:https://pie.co.jp/book/i/5858/
◆米山舞画集『EYE YONEYAMA MAI 米山舞 作品集』発売中!
書籍詳細:https://pie.co.jp/book/i/5387/
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