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イラスト業界のホンネ ~ポートフォリオの作り方~【後編 実際に持ち込みをしてみよう】

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【前編 20枚のイラストで、理想のポートフォリオ作り!】はこちらからご覧いただけます→https://www.s-ss-s.com/c/honne1
【中編 20枚のイラストで、理想のポートフォリオ作り!】はこちらからご覧いただけます→https://www.s-ss-s.com/c/honne2

※この記事は、季刊エス62号に掲載されているものと同じ内容です。
 

絵を描いている人の中には、イラストレーターになりたい人もいると思います。そんな時に大事なアイテムが自分の作品を入れたポートフォリオです。作家同士の交流のために作る作品ファイルもありますが、仕事をするためのファイルは、別の構成が必要となります。出版社の編集者がどのようなポートフォリオを求めているのか。角川春樹事務所の中津宗一郎さんに教えてもらいながら、その作り方について全3編で紹介していきます!


後編 実際にポートフォリオを作ってみよう

◎文:中津宗一郎(角川春樹事務所)  

角川春樹事務所所属の文芸編集者。角川書店スニーカー文庫、スクウェア(当時)などで編集・企画を担当。 日本初のライトノベル解説書『ライトノベル完全読本』(日経BP/2004)を発刊してラノベブームを顕在化させ、2000年代の評論本ブームにも多く携わる。新人作家・評論家の発掘に手腕がある。
Twitter:@nakatsu_s

◎立原圭子  書籍の仕事で活躍するイラストレーター。

Twitter:@k_coubou
作品サイト:http://k-coubou.sakura.ne.jp


◎粒アンコ(仮のペンネーム)  持ち込みを考えているイラストレーター志望。
Twitter:@06_pouro
pixiv:https://www.pixiv.net/member.php?id=1574507

 

プロローグ

 さてポートフォリオ作り方の連載もいよいよ最終回となる三回目を迎えました。今までのアドバイスを入れた粒アンコさんの持ち込みはどうなるのか? でもどんなに良いポートフォリオが出来たとしても、持ち込みの仕方が駄目だったらうまく行きません。一度も持ち込みをしたことのない粒アンコさんの失敗談を活かしつつ、持ち込みの仕方をレクチャー&編集者の方からのアドバイスを掲載します!




①:持ち込みのアポイントのとり方

 まず出版社に持ち込みに行くときには、メールや電話などでアポイントを取らなければなりません。
 「予約なしに持ち込みに行くのは厳禁です」
 また基本的に編集者は多忙なので、急に連絡をとって「明日持ち込みたい」というのもやめましょう。編集部によって、忙しいのが月の上旬だったり下旬だったりという違いもあるので、最低でも1週間から2週間ぐらいの幅をとってアポイントを取るのが良いです。
 ではどのようにしてアポイントを取るかということについてですが、以前は電話で連絡する以外の方法は少なかったのですが、最近では出版社全体や編集部ごとにインフォメーションのメールアドレスが掲載されていることが多いです。
 そこで、そのメールアドレスにポートフォリオの持ち込みをしたい旨の連絡を入れるのが、もっとも簡単で手早いと思われます。電話をするよりも気楽ですので、この方法を取ることをおすすめします。
その際に注意しなければいけないのは以下のとおりです。


 

1 メール表題にイラスト、ポートフォリオの持ち込み希望と書く

2 簡単な自己紹介ともしサイトアドレスを持っていたらそれを記する。

3 自分が持ち込みができる期間を余裕を持って伝える。特に地方の方が上京して持ち込みをしたい場合
には、上京している日程を踏まえた上で伝える。


 もし編集部の中で、持ち込みをしたい特定の編集者がいたら、その方の名前も伝える
(最近は、Twitterなどで編集者が名前を出している場合が多いので、この方と気が合いそうだと思ったのであれば、その方の名前を伝えることも有効です)。



 要するに、自分の都合を押し付けるのではなくて、先方の編集部の予定に合わせる形で、持ち込み希望日などの要望を丁寧に伝えることを心がけましょう。

 

今回、粒アンコさんが実際に持ち込んだポートフォリオ。
背表紙やプロフィール、イラストごとに連絡先を入れている。

 
 

②:持ち込みの準備

 さて無事に編集部に連絡がついて、持ち込みのアポイントメントが取れた後に、当日になって慌てないように事前に持っていくものの準備をしましょう。基本的なことを書きすぎていると思われる方もいるかも知れないですが、実はここに上げたものを忘れる方は非常に多いので、気をつけましょう。


 イラストを綺麗に印刷したポートフォリオ
編集部にイラストを見てもらうのに、肝心のポートフォリオを忘れるイラストレーターなんていないだろうと思うでしょう? いるんです、持ち込みなのに持ち込みのポートフォリオを忘れてしまう、うっかりさんがわりといるのです。信じられないですが。変わった方としては、イラストをプリントアウトできる環境がないため、編集部にデータを送って、編集部のプリンターで印刷をお願いする人もいます。実は持ち込みをした経験のない方の中には、そういう方もいたりするのです。
編集部に迷惑をかけるという意味で何よりご法度ですが、せっかく綺麗に描いたイラストなのですから、自宅のプリンターで、できる限り美しくプリントアウトしたものを持っていきましょう。

そのために

自宅インクジェット式プリンタ、もしくはコンビニなどで綺麗に出力

印刷する紙も光沢紙を利用して再現を高める


それを綺麗にファイルし持っていく

というのを心がけましょう。


 可能ならば原画
これは必ずしも必須ではありませんが、もしアナログで原稿を描いている方であるならば、編集部に置いていくポートフォリオとは別に原画を持っていくのはとてもプラスになります。
編集者の方としても、わざわざ手間を掛けて持ってきてくれたということで気にとまりますし、なにより原画は、プリントアウトでは再現することのできない美しさがあります。ひと手間かかりますが、もし可能であれば持っていくことをオススメします。

またイラストがわかる編集者であれば、落書きラフなどの中からも、完成イラストとは違う魅力を見出してくれる編集者もいますので、それを持っていくことも決してマイナスではありません。
ただしあくまでもポートフォリオの完成度が高い上での話なので、そこは注意してくださいね。


 編集部までの地図
特に地方から上京していろいろな編集部に持ち込みをする方ならば、必ず編集部の地図を出力して行くようにしてください。
編集部への地図は、大抵の場合、出版社のサイトに「アクセス」という名前などで載っていることが多いです。出入りの多い編集部では、初めて編集部に来る方のために、非常にわかりやすく地図が書いてあることが多いので、これは積極的に活用したほうが良いです。なにより多忙な編集者の方に時間を割いてもらうわけですから、遅刻は厳禁です。5分前には出版社に到着することを心がけましょう。


 名刺/名刺入れ
前回の中編で、ポートフォリオの末尾に連絡先を入れるようにアドバイスしましたが、それとは別に必ず名刺を持っていくようにしましょう。
ポートフォリオは編集部にずっと置かれるため、誰かに見られてしまうかもしれないので、場合によっては携帯電話などの個人情報を記さないほうがいいかもしれません。ですが、名刺には逆に入れておく事ができます。
また編集者の方とは必ず名刺交換をするはずなので、礼儀的にも用意していきましょう。住んでいる場所のことなどでも話題が広がることはありますし、そうした機会は逃さないようにしましょう。 


 商業で自分が描いた出版物/同人誌など
もしすでにデビューしていて、自分がカバーを描いた書籍などが出ていたら忘れずに持っていくようにしましょう。
自分のアピールにも繋がりますし、また実際に商業で描いたときの雰囲気を直接伝えられることは大きなメリットがあります。
同人誌即売会用に作った同人誌を持っていくのもいいですね。ただ同人誌はどうしても趣味に走りがちなので、そうではないプロ仕事として自分が何をやったのかを示すために、商業誌は持って行くようにしましょう。
 


 編集からの指示を書くメモ帳
また忘れてはならないのは、編集者からのアドバイスなどをメモするためのメモ帳です。特に漫画の持ち込みをする方などは、編集者からのアドバイスが多岐に渡る場合も多いので、打ち合わせ用のノートを作って持っていくようにしましょう。
イラストを批評してもらっている時には必ずメモをとるようにしてみてください。
  


 大きめのバッグ
編集者さんの方が資料として、ご自身の作った本をくださる場合などがありますので、
大きめのバッグをもって行きましょう。


【持ち込み結果報告1 講談社 渡辺圭氏】

「まず、ポートフォリオを見やすくキレイに作ることです。まだ練習中ということもありますが、どんな絵が描けて、どんなことができるのかを明確にしたほうが編集者の目に留まりやすいと思います。1冊にまとめてもいいので、ジャンル別にページを区切って作るとなおいいです。もっと枚数描いて、1枚1枚のレベルの差を無くすことも大切ですね。最初に持ち込んだのが、弊社だったためか、ジャギー(ぎざきざ)が目立つデータ量の少ないプリントアウトなどが混ざっていたので、こういうのを無くすように注意してみてください。」

 




③:持ち込み当日

◾️受付での挨拶

 待ち合わせの時間の五分前を目安に出版社についたら、受付で対応してくださる編集者さんを呼び出しましょう。受付の形式は、出版社によって違います。受付の担当者がいる出版社もいれば、受付には内線電話が置いてあり、そこで電話をかけて呼び出す場合などがあります。受付用紙を書く場合は、キチンと相手の部署名を記して、またアポイントをとっていた旨も伝えましょう。 
 内線電話で担当者を呼び出す場合には、下記のように電話先で出てくれた方に話しましょう。

「こんにちは。イラストの持ち込みのお約束でうかがいました、粒アンコと申します。●●さんはいらっしゃいますでしょうか?」

このように話さないと内容が伝わらないので注意してください。ちなみに今まで私が受けた挨拶の電話で一番ビックリしたのは。
「あの、中津さん、あわわあわ……」
というものでした。さすがにいろいろと大変でした。


◾️担当者との挨拶 

受付が終了したら、約束した担当者さんとお会いすることになります。先に書きましたが、編集者さんは多忙なので、次のようにキチンと挨拶をしましょう。

「はじめまして。粒アンコと言います。今日はお忙しいところをお時間をとっていただいてありがとうございます。よろしくお願いします」

そして名刺交換をしてから実際にイラストを見てもらいましょう。
 さて、実際にイラストを見てもらった時に話す内容ですが、自分の描きたいイラスト、今までの経歴などを話しましょう。
 基本的に編集者さんはイラストの持ち込みなどには慣れている事が多いので、無理に話す内容がなかったり、緊張していたりするのならば話さなくても構いません。
 ただ後のことを考えておくと、次のようなことを聞いておくことはとても参考になるので、聞いてみましょう。


 イラストの感想/アドバイス
これは編集者さん方から話してくれるでしょう。厳しいことを言われる方もいるかも知れないですが、それはチャンスと思って、キチンとメモを取りましょう。


 その出版社で売れている本/編集者さんが作った本
一つの話題として、自分が読んでいる持ち込みをした出版社の本の話や、編集者さんの作っている本の話を伺うのは良いことです。どういった需要があるのかの情報収集にもなるので、積極的に聞いていきましょう。


 自分が注目しているイラストレーター

さて持ち込みをした場合、編集者さんから好きなイラストレーターさんや、最近注目しているイラストレーターさんを聞かれることがあります。こうしたことを聞いてくる編集者さんと言うのは、情報収集に熱心でアンテナの高い編集者さんです。遠慮することなく、また自分のことでなくても積極的に話していきましょう。


4 最近面白かった小説、コミック、映画の話

また同様に最近興味のあることなど聞かれるかもしれませんが、これも情報交換という意味で遠慮することなく話すといいでしょう。

 

【持ち込み結果報告2 小学館マンガワン 豊田夢太郎氏】

「弊社へはマンガを持ち込みいただきました。あくまでも一般論としては『ネームもしくは投稿用完成原稿(ネームのみの場合は過去作品見本)』を持ってきていただくと話がスムーズです。粒アンコさんにつきましては、『こういうのが描きたい』というイメージは明確でした。あとはそれを元にプロット(時系列)、設定、さらにはネームまで落とし込めるかどうかが勝負です。作画技術については、現状のスタートラインからすると『描けば描くほど上手くなっていく局面』ではないかと思います。つまり、とにかく画稿を仕上げていくことが重要ですね。」
 




 ④:持ち込みが終わった後

 さて持ち込みが終わったといって、そのままにしてはいけません。必ず編集者の方から聞いたアドバイスを活かして、次のポートフォリオ作りや新しいイラストの作成に取り掛かりましょう。
けれどもその前にやっておくことがあります。

 

 その日のうちに御礼のメールを書く

持ち込みを見てもらった御礼のメールをその日のうちに書きましょう。これは編集さんのメールに自分の連絡先を残すという意味でも非常に重要です。

忘れずにその日のうちに書くようにしましょう。


 Twitterやブログには不用意なことは書かない

編集さんは、気になったイラストレーターさんであれば、かならずTwitterやブログをチェックします。持ち込みを見てもらったことは描いても構わないですが、あまり踏み込んだことを書きすぎないようにしましょう。

持ち込んだ編集さんには感謝の念を込めて。


 1年後ぐらいに新しいポートフォリオができたら、また持ち込みか郵送を行う

またポートフォリオを渡したとしてもそれで終わりではありません。他社でのプロ仕事を得られたのであれば、それもポートフォリオに加えて、1年から1年半後にまた新しいポートフォリオを編集さんに郵送するなどして、アピールを忘れないようにしましょう。
 

【持ち込み結果報告3 東京創元社 古市怜子氏】

「小説のイラストを描きたい方は、男女の両方を年齢問わずに、色んな顔と表情が描けた方がいいですね。それと好きな小説の架空カバーを描くというのは、良い訓練になると同時にアピールにもなりますよ。背景をもっとちゃんと描くことと自分に合った塗りのやり方を見つけたほうが良いですね。流行りや売れているものをとにかく見たりチェックすることは重要です。好きなデザイナーさんや同じ絵描きなど横の繋がりを増やして情報交換し、自分の描けるイラストの幅を増やしていきましょう。」




【連載終了のまとめ!】

さて最後になりましたが、プロデビューするための心得などについてまとめてみましょう!

●2年以内に描いた新しいイラストで、常にポートフォリオを更新し続ける

●自分の得意なイラストだけでポートフォリオを作ってしまっては駄目。色々なイラストを幅広く描けることをアピールしよう

●モノクロイラストは後半でいいので必ず入れよう

●イラストの外枠に、自分のペンネームと連絡先を入れよう

●自分の連絡先などは、最初のページに入れるのではなくて、最後のページに入れよう。まずイラストをアピール!

●持ち込みをする際には、緊張しなくて構わないですが、礼儀正しく。忙しい編集さんに気を使って!


三回にかけて掲載した『ポートフォリオの作り方』は、いかがでしたか? みなさんも今回の記事を参考にポートフォリオを作ってみてください。そして是非、出版社に持ち込んでみましょう!



★立原圭子さん、粒アンコさんのポートフォリオを公開!
お二人のポートフォリオをぜひ参考にしてみてください♪
(画像をクリックするとポートフォリオをご覧いただけます)