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ghostpia シーズンワン Special interview<後編>【ミタヒツヒト&山本すずめ】

対談・インタビュー
雪に閉ざされた町に住む幽霊たちの物語を映画のように
読み進めていくビジュアルノベル『ghostpia』。
絵本のようなタッチとグリッチとノイズに彩られたノスタルジックな表現が味わえる。
このたび装いも新たに、Nintendo Switch向け・Steam向けのビジュアルノベル『ghostpia シーズンワン』としてリリースされる。
新作エピソードだけでなく、これまでのエピソードもリメイクしたという意欲作について今回は制作チーム・超水道から山本すずめさんとミタヒツヒトさんにご登場いただき、制作チーム結成時のお話から『ghostpia』の世界の魅力、ビジュアルづくりのエピソードまで幅広く伺った。
3/15に発売された「季刊エス」81号の誌面に引き続き、WEBではメインプログラマーのhako 生活さんも参加!
豪華な前後編のロングバージョンでお届けする!

絵本のような質感や異国の雰囲気が漂う『ghostpia』の背景美術で大事にしたこと


──インタビュー後編は『ghostpia シーズンワン』の印象的なメインビジュアル(上図)から伺っていきたいと思います。

山本 小夜子は幽霊の町で唯一の異邦人なので、どこまでも自分が孤独だと思っているんです。『ghostpia シーズンワン』のメインビジュアルは、そんな彼女の「どこから来てどこへ行くのか」という気持ちを表現しています。それで描くキャラクターを思い切って一人に絞ったんです。

hako 生活 『ghostpia シーズンワン』のメインビジュアルで小夜子の心情を伝えることを選んだのは、すずめさんが長い時間をかけて小夜子たちを描いてきたからこそだと思います。この絵は制作の最後の方に描いたものなのですが、これまでの集大成といいますか、完成形として生まれた絵なのだろうなと感じました。

──とても印象的ですし、真っ白な雪の世界を見ていると、スタートも終わりもない残酷さや静けさを感じます。この背景美術も山本さんが担当されているんですよね。

山本 キャラクターのデザインと並行してコンセプトアートを進めていきました。もともと僕がアナログで絵を描く人間だったこともあるのですが、『ghostpia』の世界観にはアナログ寄りの画風が合いそうだなと感じていて。そこでまずCorel Painterという描画ソフトで絵具のタッチや厚塗り風などいろんなブラシを使って描き試してみて。試行錯誤したなかでパステル風の雰囲気が異国感も醸し出せるので良いなと思いました。それを意識して最初に描いたのが紺色の空と雪原の風景です。


──この雪原の風景は『ghostpia』の世界に欠かせないビジュアルになっていますよね。

山本 あの絵を描いたとき、世界観が明確にイメージできたんです。北欧やロシア北部などの雰囲気を参考にしつつ、幽霊の町はどこでもない場所が舞台なので、イメージが偏らないようにしています。それでカラフルな壁や建築様式の異なるいろんな家を登場させて。あとは塗装が剥がれていたり全体的に寂れてるところにノスタルジーを感じるので、そういった雰囲気も大事にしています。

ミタ 魅力的に見えつつ、小夜子が抱く「ここは嫌いだ」と思う気持ちも理解してもらいたくて。居心地の悪い感じもある絶妙なラインに仕上げてもらいました。

──背景の輪郭線をフリーハンドで引いているところも、絵本のような手描きの温かみに繋がっているのかなと感じました。

山本 ありがとうございます。そこに言及してくださる方はあまりいないので嬉しいです。定規や直線ツールは極力使わないようにしていて、なるべくフリーハンドで描くことにこだわってます。実際の世界でも完璧な直線は存在しませんし、微妙に曲がってることも多いですからね。そういった歪みがある方が、僕は逆に存在感が出ると思っているんです。

──雪が積もる夜の妙に明るい色合いもリアルさがあるなと感じました。みなさんは雪国にご縁があるのですか?

山本 蜂八憲以外は東京生まれでみんな雪に対して馴染みがないのですが、大学の研修旅行で青森に行ったときの風景が印象に残っていて。五月頃でも山の方には雪が残っていて、特に夜の雪景色が綺麗だったんです。月の光が反射して結構明るいんですよね。その風景が脳裏に焼き付いてたのかなと思います。
 

新作だけでなく過去の話数もリメイクした『ghostpia シーズンワン』のこだわりを紹介!

──静けさや柔らかい光が綺麗だなと思いました。今回リリースされる『ghostpia シーズンワン』についても教えてください。

山本 iOSでリリースしてる『ghostpia』で第4話まで読むことができるのですが、Nintendo Switch版・Steam版にはその続きの第5話が収録されています。一話ごとに百枚前後の絵を描いているのですが、第5話は一番ボリュームがありますし、演出や動きもいっぱい取り入れています。それに加えて、iOSではできなかった派手な演出も見どころです。第4話の制作を終えた頃からアニメーションやPVなどの動画も積極的に作っていたので、演出の中に動きをいっぱい取り入れました。

──具体的にどんなふうに取り入れられたのでしょう?

山本 これまでキャラクターの立ち絵は一枚の動かない絵でしたが、吹き出しが出るときに口パクを追加したり、目もパチパチ瞬きするようにしました。それを第1話~第4話にも追加しています。これまでのエピソードもそのまま移植するのではなく、絵や演出を見直してほぼリメイクしているんです。一番最初に『ghostpia』の絵を描き始めたのが九年前なので、見返すと気になるところがあって。その時も全力で描いていますが、今の全力に合わせたいなと思って描き直したところがあります。

ミタ 少し手直しする感覚でプロジェクトを始めたんですけど、最終的にかなりグレードアップしています。変えたいという要望を受け入れないのは超水道らしくないなと思ったので、ぜひやって欲しいと言いました。僕もシナリオをには手直しを入れています。細かい言い回しが変わっていたり、校正もしっかり入って誤字脱字が無くなりました。

山本 かなり自由に手を加えたのですが、超水道にはグラフィッカーが二名しかいないので、そのなかで分担するのが難しくて…。今回はroom6さんに相談して、グラフィッカーの方にお力を借りることができました。あとは、iOS版では技術的な面で難しかった「グリッチノイズ」というエフェクトを画面上にリアルタイムで生成するという、かねてから実装したかった表現を加えることができたので、注目していただけたら嬉しいです。


──これまでのビジュアルもざらっとしたノイズでノスタルジーを感じる質感になっていて、特徴的だと思います。ビジュアルを作られる段階からノイズの質感をイメージされていたのでしょうか?

ミタ 最初からありました。これはすずめ君の提案だよね。

山本 美大生の頃から気になっている表現なんです。専攻する日本画で使っていた岩絵具の粒子の美しさに惹かれて。絵の具ってだいたいペースト状じゃないですか。でも岩絵具だと目に見えて粒子なので、塗った時に一粒一粒の間のスキマが見えるんですよね。その「情報が繋がっていない」感じが、なんだかデジタル信号的だなと思ったんです。その発想を何か作品として表現できないかとぼんやり考えていて、「ノイズ」というところに落ち着いたんです。実際にコンセプトに取り入れた作品を岩絵具で描いたこともありました。

──学生時代から気になっていた表現と繋がったのですね。

山本 『ghostpia』のために岩絵具とデジタル信号の関係性を考えたわけじゃないんですけど、作品のコンセプトとマッチするなと思ったんです。「ここではないどこかの映像」みたいなイメージ。それをノイズ感で出したいなと思いました。

──画面を通して見ている物語のなかに、信号的なものが意図的に入っているという表現は、とても面白いです。

山本 VHSのノイズやブラウン管の走査線、フィルム写真のグレインなど、ノスタルジックさの表現としても相性が良かったんですよ。


──素敵なエピソードです。新たに加えている「グリッチノイズ」はこれまでのノイズとは違うものなのでしょうか?

山本 これまでは静止しているノイズでしたが、実際に古い映像に映るノイズのように、動きをつけて乗せているんです。とても存在感が出たと思います。リアルタイムで生成しているという点が違いです。

hako 生活 最初から議題にあがっていましたよね。超水道さんから「一見、プログラムで組んだものと分からないぐらいのリアルな質感を出したい」とありました。

山本 そんな話をしましたね。Nintendo Switch版の制作を始めた時期は世間的にもグリッチノイズが流行りはじめた頃で、絵や映像の表現手法として、色収差やノイズ、ブロックノイズのような、ちょっと画面が乱れる表現を見かけることが増えてきました。今はグリッチエフェクトも一般的になって、誰でも手軽に加工できるようになりましたよね。

──たしかに、描画ソフトやアプリで手軽に表現できるようになりました。

山本 でも、上手くやらないとエフェクトを「乗せただけ感」が出てしまう気がして、今回はより本物に近い手触りを目指しました。「ずいぶん変わったな」と分かるぐらい変化していると思いますよ。それと、HD振動機能に対応していることもNintendo Switch版ならではだと思います。例えば小夜子が物を叩いたらその感触が返ってくるなど、とても臨場感があるんです。移植というだけでなく、世界を表現する絵筆が一つ増えたような感じで作っています。
 

これからの展開からも目を離せない! 今後の展望について

──触覚も加わるのは新鮮な体験になりますね。今後のプロジェクトについても伺ってみたいです。“シーズンワン”があるということは、“シーズンツー”も進行中でしょうか?

山本 “シーズンワン”というタイトルが示唆的ではあるんですけど、物語は続きます。全10話の構想で考えていて、“シーズンワン”には第5話まで収録しました。この先のお話も早いうちに届けたいと思っています!

──最後に山本さんご自身が『ghostpia』の制作と並行して興味があることや、挑戦されたいことを伺いたいです。

山本 作品のためになるなら表現方法に囚われたくない、という気持ちが僕のベースにあります。見てくださる方に驚きを提供したいということが自分の楽しみのひとつなので、ゲーム制作を通して興味を持った3Dや映像作りなど、いろんなことに挑戦していきたいという野望があります!

──山本さんの活動や今後も広がっていく『ghostpia』の物語や展開が楽しみです。また、季刊エスの誌面にも特集記事を組んでいます。こちらにはメイキングも掲載しました。あわせてチェックください! 本日はありがとうございました

 


ビジュアルノベル『ghostpia シーズンワン』はニンテンドーeショップにて配信中!

スタッフ
原案・シナリオ:ミタヒツヒト
制作進行:蜂八 憲
アートワーク:山本すずめ・斑
メインプログラマー:
hako 生活(from ヨカゼ)
音楽:高野大夢
歌:Meno
制作:超水道
レーベル:ヨカゼ
パブリッシャー:room6

Twitter@chosuido
ghostpia公式サイトhttps://ghostpia.xyz/
超水道公式サイトhttps://chosuido.jp/

山本すずめ Twitter@yamamotosuzume
ミタヒツヒト Twitter@hitsuhito
hako 生活 Twitter@clrfnd