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幸せな競技人生でした――フィギュアスケーター田中刑事さん 引退会見全文

対談・インタビュー
いくつもの試練を乗り越え、不撓不屈の精神で、平昌オリンピックや四度ものフィギュアスケート世界選手権にも挑んだ、フィギュアスケーター田中刑事さんの半生をなぞるような『ショパンの夜に』――
プロデビューとなる新作を初披露されたばかりの田中刑事さんが、演技のための、前髪に白いメッシュを入れたままの姿で引退会見に臨みました。

2022年4月29日(金)午後2時40分ごろ、プリンスアイスワールド横浜初演ののちに行われた、会見の全文をご紹介したいと思います。
 
取材/田中刑事写真集公式
写真協力/鮫島亜希子、坂本清
――田中刑事さんが引退を発表されて、このたび、ご発言いただけるということで、お言葉をお願いいたします。

田中 今日はお集りいただき、ありがとうございます。
ちょっと思っていた以上に記者さんがたくさんいるので、緊張していますが、いろいろ想いを伝えたく、書面にて考えてきたので、見て、読ませていただきます。
 

引退を決断したのは、昨年、全日本選手権のフリーを終えた後。

田中 このたび、4月11日に競技の引退を発表いたしました。
引退を改めて決断したのは、昨年の全日本選手権のフリーを終えた後です。
全日本選手権は納得のいく演技ができなかったので、達成感があったわけではありませんが、ここで区切りをつけようと思いました。
シーズンを振り返って、思うような競技成績を残すことができず、悔しいシーズンでしたが、自分の中で新たな目標を立てすぐに……競技生活には未練はなく……次のスタートを切ろうとすることができました。
そして、その目標のひとつは指導者になることです。
そのために、現在、ひょうご西宮アイスアリーナにて、長光歌子先生、淀粧也香先生のもと、アシスタントコーチとして選手の指導をしながら、コーチ業を勉強させていただいています。
コーチになりたいという夢は小さい頃から抱いておりました。これまで長い競技生活のなかで、経験した成功や失敗を通して、スケートの楽しさや技術を伝え、さらに選手の成長にとって必要なことは何かを考え、一人一人真摯に向き合っていきたいと思います。
 

演じることで出会えた、さまざまな自分。新たな自分の発見。競技の枠を超えて演じたいと思うように。

田中 もうひとつはプロスケーターになることです。
小さい頃からコーチになりたいという夢だけでしたが、さまざまな経験を通して、プロスケーターにもなりたいと思い始めました。
これまで競技人生を通して、多くのプログラムに出会い、それを演じるなかで、さまざまな自分に出会うことができました。こうしてプログラムを通して、新たな自分を発見することに楽しさを覚え、だんだんとさまざまな曲に挑戦するようになりました。
特に昨年のPIWで演じたジュ・トゥ・ヴや、LUXEで演じたナルシスを通して、競技人生を終えた後も演じることを続けたい、競技という枠を超えて演じたいと、強く思うようになりました。
コーチとしての活動と、プロスケーターとしての活動の両立は大変難しいことだと覚悟しております。しかし、自分の想いを体現できるように努力していきます。
 

いかなるときも僕を信じ、応援してくださった皆さまに、多大なる感謝を伝えたい。

田中 私はヘルスピア倉敷でフィギュアスケートに出会い、佐々木美行先生のご指導のもと成長し、そのあと、長光歌子先生、淀粧也香先生、林祐輔先生、河野由美先生のご指導のもと、オリンピックや世界選手権など目標にしていた大きな国際大会に出場することができました。

これまでの競技生活のなかで、本当に多くの方に支えていただきました。フィギュアスケートに取り組むことを理解しつつ、ご指導してくださった学校関係者の皆さま。
拠点として活動させていただいたヘルスピア倉敷、臨海スポーツセンター、ひょうご西宮アイスアリーナのスケートリンクを含め、全国のスケートリンクの関係者の皆さま。
あらゆる場面で選手のために尽力してくださった、日本スケート連盟の皆さま。身体面や精神面のケアをしてくださった皆さま。
練習ばかりで会うことがなかなかできなくても、いつも気にかけてくれた友人たち。スケーターとして切磋琢磨し合い、お互いを高め合って、一緒に成長し合いながら、友人としても仲良くしてくれた先輩、同期、後輩の皆さま。
いかなるときも僕を信じ、応援してくださり、お手紙やプレゼントを通して元気づけてくださったファンの皆さま。
そして、僕のわがままで続けてきたスケートを、金銭面的にも余裕があったわけではないのに、小さい頃から引退するまで変わらず、ずっと大きな愛情を持って支え続けた家族。この場をお借りして、多大なる感謝を伝えたいと思います。
皆さまのおかげで幸せな競技人生でした。本当にありがとうございました。(一礼)
これからもよろしくお願いいたします。そして、最後に、今回このような会見を開いていただいたプリンスアイスワールドの関係者の皆さま、本当にありがとうございました。(深く一礼)
以上です。(拍手)

―― ありがとうございました。では、皆さまからご質問をいただきたいと思います。

田中 お願いします。

―― このたびは、お疲れ様でした。

田中 ありがとうございました。
 

一瞬……一瞬一瞬。ほとんどは苦しい時間。折れずに最後まで続けてきたことを糧に。

―― 幸せな競技人生ということでしたが、改めて振り返ってみて、いかがですか。

田中 そうですね。本当にいいことばかり続いていたのは、本当に一瞬だけだったんですけど、一瞬……一瞬一瞬。本当に、一年に一、二回くらいは、楽しいなと思える瞬間はあったんですけど。
ほとんどは苦しい時間だったと思うんですけど、でもそのなかで、自分に折れずに最後まで続けてきたことは、これからの糧になるなと思っています。

―― いままでで一番印象に残っているプログラムは……。

田中 そうですね。その質問は一番言われるだろうなと思って、準備しようとしていたんですけど、何も思い浮かばなかったです。
やっぱりどの試合も、何かしらエピソードがあって、辛い想いをして、その場に立って、悪かった試合ですら何か、こう残ってきたものがたくさんあったので、その質問(の答え)だけは思い浮かばなくて。
どの試合も思い出を語れって言われたら語れるので、また時間があるときに、あの試合どうでしたかって訊いていただけると、すぐに思い出せます。ありがとうございます。

―― 引退にあたってスケーター仲間から、何か連絡はありましたか。

田中 そうですね、本当に引退をするっていうことは……選手のなかでは、全日本選手権が終わった瞬間に、「今日で終わり」っていうのを仲間内でしゃべって。そのときに……そうですね。選手同士で、ま、軽く挨拶した程度ですよね。
僕自身、次の道というのをしっかりと決めることができたので、全日本選手権、悔しかったんですけど。次、どうしようっていうのが自分の中ではっきりしたぶん、強く一歩を踏めた感じです。
 

オリンピックのリンクで、あの「日本の旗」を見たときの光景は、いまでも忘れられない。

―― オリンピックの思い出は大きいと思いますが……。

田中 ……そうですね。いまとなっては意外と薄いんですよね、(オリンピックの)思い出が……ぐらい、他の試合にちゃんと思い出があって。
オリンピックに思い出がないわけじゃなくて、オリンピックで得たものというものはすごく……。
あの光景、オリンピックのリンクに立ったときの、あの「日本の旗」を見たときの光景をすごくいまでも思い出しますし、あのときの風景は、いまでも忘れないです、やっぱり。
でもそれだけではないですし、他の試合でも同じぐらい声援をいただいて、いろんな試合で(声援を)いただけたので、やっぱり一番は決められないし……。
オリンピックもそれぐらいかすんでしまうほど、他の試合でもたくさん応援されていたことを実感しながら滑ることができました。

―― ありがとうございました。お時間になりましたので、フォトショットの時間をいただきます。
 
-写真撮影-

―― では、以上で田中刑事さんの記者会見を終わりたいと思います。

田中 ありがとうございました。(拍手) ありがとうございました。(深く一礼)(拍手)

 

この記者会見は、プリンスアイスワールド横浜の初演と二公演目の間に行われました。
なお、田中刑事さんの新作『ショパンの夜に』は、2022年5月5日(木)まで、プリンスアイスワールド横浜でご覧になれます。

【予告】謎めいた『ショパンの夜に』の独創的なアートの世界観――次号「季刊エス」(6月15日発売)で、田中刑事さんに詳細をうかがう予定です。お楽しみに。

プリンスアイスワールド横浜『ショパンの夜に』より