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『田中刑事写真集』田中刑事 感想コメント…のはずでしたが、

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『素顔の田中刑事』より、もっと “素”な田中刑事ショートインタビュー

波紋を呼んだ、電子書籍限定版写真集『素顔の田中刑事』――
アイスショー「ドリームオンアイス」開演前の田中刑事さんに、簡単なコメントだけいただくつもりが、唐突な、本音トーク(笑)から始まり、たった15分の間に、思わぬ話にまで広がって……!?
 
(インタビュー:2021年7月9日 9:45~10:00)
 

自分の写真を見るのが苦手な僕が、写真集を出したわけ。

刑事 僕は自分の写真が苦手で、もともと積極的に写真集を出したいキャラじゃない。最初にお伝えしたと思うんですけど……。

―― もちろん、覚えています。

刑事 今回の写真集も、正直、そんなに……気乗りしなかった。

―― そうでしたね。

刑事 それなのに、なぜ出すことになったのかというと、昨年、エヴァンゲリオン対談で撮った写真を残したままなのは、カメラマンや一緒に動いてくれたクルーに申しわけない。僕の、あんまり好きじゃないからという理由で、写真を眠らせたままにしてしまうのは申しわけない。
言い方がなんですけど、「もったいない」。僕が、というより、クルーの人たちの労力がもったいない。だから、ま、しょうがなく……。

――  (爆笑)

刑事 嫌な感じの、しょうがなくではないんですけど……!
もったいないのは、僕自身、嫌なんです。僕自身のわがままよりも、もったいないを優先してしまった……。

―― 田中さんは、もったいないのがお嫌でしたね。

刑事 僕の切り口から言うと、やっぱり、そうなっちゃうんですよね。
でも、紙は嫌だって言い続けました。データなら、もう自分でデータをポチポチしないと目につかないけど、紙で残ったら、悲しくなる……紙で残ってほしくないっていう、僕のわがままは通させてもらいました(笑)
あと、僕はアイドルじゃないから、あくまでスケーターとして見てくださる方、ファンや僕を応援してくださる、見て、伝わる方々だけに届いて欲しかったので、ターゲットを絞って、限定発売になりました。

―― 私も自分の写真が苦手なので、気持ちはわかります(笑)

刑事 僕も、そういうタイプなので……。
実際のところ、自分の写真を見て、これ微妙だな、これいいねって言える人はいるとは思います。でも、僕は自分の写真を見るのが本当に苦手、好きではないんです……。 うまく撮れていると、よく撮れているな、とは思いますが、いい悪いまではわからないし、自分の写真を見ても、僕は、特に何も思わないです。
だから、作ってくださる方に選んでもらうほうがいいんです。いつも「おまかせします」って感じで……。

―― わかります(笑) ご自身の写真を見るのが好きではないのに、よく頑張ってくださいました。(※編注;途中で何度か、写真集のラフを確認してもらいました(笑))
 

 

写真集『夏のメモリーズ』と『But first, a tiny break』は、昨年7月に行った、エヴァンゲリオン対談用の、未発表写真を中心に。カメラマン選定の2000枚近いものから厳選しました。
最新撮りおろし写真集『光と影のはざまに』は、2021年4月、ひょうご西宮アイスアリーナで撮影した、夜練を中心に。ほかにも、圧巻のロングインタビューや、田中さんが新境地に挑んだ、 “Je Te Veux”の写真も収録しています。
その、“Je Te Veux”に関するお話もうかがいました。

 

田中刑事版“Je Te Veux”は、切なくも甘い、文学の香り。

『田中刑事写真集』田中刑事 感想コメント…のはずが? パリの街角。煙草とワルツ。
幻のような、運命の女。
一瞬の耀き、散りゆく愛のかけら――
きらめきの演技。

 

 

―― 以前、フィギュアスケートは感情を≪型≫として作り込んでいき、振り付けを正確に演じる側面もあるとお聞きしましたが……。

刑事 そうですね。

―― “Je Te Veux”では、それを痛感したというか。「プリンスアイスワールド横浜」(5月1日~5日)のリハーサルを拝見しましたが、田中さんが精巧な回転オルゴールみたいに見えたんです。
そのあと、テレビで特番が組まれたときに流れた、千秋楽の映像が、ある種ほとんど同じで、衝撃を受けました。そして、“Je Te Veux”は、何度でも見たくなる、美しい演技でしたね。
 
刑事 “Je Te Veux”は十公演もあったので、いい緊張感もあって、ちょっとずつ、気持ちに余裕ができてきました。
初演はがっちがちで、振り付けをどうこうしようというより、緊張感でパンパンでした。
コロナ対策で、50パーセントしか人が入っていなくても、「わ、いる」って感じ。間をあけて座っていても少なくは感じないんですよ。リハのときも、意外と人がいるなって……。
 
―― そう感じましたか。
 
刑事 普段のリハは、もっと少ないんです。だから、正直本番と同じだったので、僕としては十一公演やった感じでしたね。
さすがに同じことを十回もやれば、そこに、ちょっとずつ気持ちに余白ができてきた。僕の意識の余白を振り付けに注ぐことができ、振り付けをもっときれいに見せようと、そういう意識が入り込めるようになってきました。十公演を重ねた意味があったかなと。
 
―― 初めてリハーサルを拝見したのですが、他のスケーターの方は、ジャンプを飛ばなかったり、流したり? 田中さんだけ、ちゃんとやっていたのが印象的でした。

刑事 ゲネプロ(通し稽古)では、本来は、全体を通して、まとまった流れを見るものなので、ジャンプを抜いたり、スピンを抜いてもいいんですよ。
ただ僕は、翌日、重いプログラムを控えていたので、あえて今日は全部やりますって、町田くんに伝えて、ちゃんとやったんです。
 
―― ちゃんとやってましたね。
 
刑事 ちゃんとスイッチを入れてやりました。町田くんというプロデューサーがずっといたので、ゲネプロで、いまいちのものを見せると、本番で、町田くんも緊張するので。「どうしようどうしよう、これで大丈夫かな」って思わせたくなかった、悩ませたくなかった。
 
―― 迫真の演技でした。観客がいないのがもったいないくらい。
“Je Te Veux”は文学のような、派手さのない、裡に秘めた心理ドラマですから、映像では映しきれないものもありましたしね。せめて写真に残せて良かったです。

 

僕にとっての、継承プロジェクトの解答とは…。

『田中刑事写真集』田中刑事 感想コメント…のはずが? 「プリンスアイスワールド横浜」では、
元フィギュアスケーター町田樹自作、
“Je Te Veux”を≪継承≫。
まったく同じ振り付けで、
まったく違う≪恋の美学≫を描き出した。
 

 

―― Twitterには、田中さん版“Je Te Veux”は「悲劇性、切なさが増した」、「恋人と死別したんじゃないか」とか、「刑事くん、いま辛い恋をしているのでは? 心配」(笑)  といった感想までありました。

刑事 それが、僕が出しやすい表情で、雰囲気なんでしょうね(笑) そういった感想が生まれたのは、すごく興味深かったし、嬉しいです。
継承プロジェクトを発信する、町田くんにとっての意義は、ユーチューブや雑誌で話されているので、僕もそこはくみ取りましたが、僕にとっての意味は、まったく同じ振り付けをしたときに、どう捉えられるか、どう見えるのかが最大のクエスチョンであり、楽しみだったんですよね。

――  確かにふたりの “Je Te Veux”は、まったく違って見えました。

刑事 同じ振り付けを別の人が演じるのは、やれそうで、意外とやれなかったことだし、まったく違って見えたというのは……当たり前ですけど……これで、フィギュアスケートが、(単に振り付け通り滑っているのではなく)その人の個性が出やすいということを証明できた。それが、僕にとっての、このプロジェクトの最大の収穫でした。
もしも、うまい下手の話で終始して、感想を聞けるレベルまでいかなかったら、僕の実力が足りなかったということになります。そこは不安だったんですけど、なんとか演じられて、町田くんはこうだったけど、僕の演技はこう見えたという感想まで聞けました。
どっちがうまいか下手かではなく、どう違うか、その感想をこそ僕は聞きたかった。いろんな考察をしてもらえて、いろんな感想が聞けて、それだけで、正直満足しているところがあります。

―― 後半になるにつれ、狂おしく、最後のスカーフを持って滑るところは切なかった。

刑事 人が死んだとか、そこまでは僕考えてないんですよ。別に死ぬところまでいかなくていいというか(笑) 僕なりの悲しい表情をしただけで、死んでないよ、って本当は思うんですけど、そこで死んで見えるのは、僕の才能であり、そう見えちゃうっていうのが僕の個性でもあり……。

―― いつも残酷なアニメを見たり、マンガを読んでるからかも (笑)

刑事 いや、本当に面白い。僕がそういう表現を出しやすい、ということも分かったし、そここそが、おそらく町田くんと僕が違う風に見えていた、最たる理由だと思うんですよね。そこが伝わればいい。
おおまかなストーリーはあるけど、僕自身が正解を提示しているわけではなく、自分の演技を見て、どう感じ取ってもらえたかというところに正解があるというか。僕は、こうやったらどう思われるかな、とその程度しか考えてないんですよ。

―― それが一番難しいんですよね。
以前から、私は田中さんの演技を、能のようだなと感じていました。能面は照り(上向き)と曇り(下向き)の、微妙な陰影のみで哀しみを表します。静かな、けれど激しい、その哀しみの方向を指し示すけれど、どう解釈するかは見る側に委ねられるところが多いんです。


刑事 そういう風に思われたんだと、単に興味深い解釈だと捉えることもできますが、僕にとっては、どの解釈も正解でした。
それが、僕が一番気になっていた、継承プロジェクトの解答で、いろいろな考察全部が正解だと思った。その感想すべてが正解だって。これでいいんですよ。それで僕は満足したんです。
ある意味、ショートやフリーよりも、いろいろな感想を聞けて面白かったです。

―― もちろん、ショートとフリーは滑り込む時間が全然違うので、まったく別ものだとは思いますけれど。

刑事 そうなんです。

―― アイスショー「LUXE」の『ミラー』もそうですが、濃密に練り上げていくショートとフリーがあってこその、花だろうと思います。
 

 

“Je Te Veux”は、「プリンスアイスワールド大分」(8月7日、8日)で再演が決定しています。匂い立つ恋の香りを、幽玄美を、できれば現地で。
さらに、眩いばかりに絢爛なアイスショー「LUXE」(5月15日~17日)では、田中さんは、光の王子こと髙橋大輔さんと、妖しく美しい男同士のデュオ『ミラー』を演じられました。
光の王子の行手に待ち受ける、幾多の神秘や、いかに。

 

自分に恋する、ギリシア神話の美少年ナルシスを演じて。

―― 髙橋大輔さんと演じた『ミラー』は話題騒然でしたね。カーテンコールでは、田中さんが出てくるだけで観客は拍手喝采でした。

刑事 ギリシア神話の少年ナルシス、≪ナルシスト≫の語源になったキャラクターを、僕は演じました。

―― 水に映ったナルシスが、田中さんですか?

刑事 そうです。自分に恋をするという設定ですが、主人公の光の王子が苦悩し、葛藤するシーンでもあります。

―― ナルシスの神話はご存じでしたか?

刑事 振り付けのときに教えてもらいました。
『ミラー』も、いろいろな解釈があると思うんです。ストーリー性が強い、お芝居という感じだった「氷艶」に比べれば、「LUXE」は本当に台詞が少ないショーでしたから。

―― 光のイリュージョンもすごかった。

刑事 チームラボの人たちですね。

―― 『ミラー』は、髙橋さんの周りに広がる冒頭の波紋から惹きつけられましたし、目を凝らしても、闇の中から、いつ田中さんが現れたのかわかりませんでした。

刑事 前の方に座っている人には、僕が滑ってくる音が聞こえたらしくて、「あの音が聞こえなければ」と言っている人もいたんですけど、そんな時間ない。しっかり蹴って、早くスタート位置につかなきゃ、って僕は内心焦っていました(笑)

―― 古代ギリシアの青い衣装や編みあげ靴も、初々しくて、可愛かったです(笑)

 

―― 話は尽きませんが、残念ながら、もう時間になってしまいました。今日は、これから「ドリームオンアイス」の初演ですね。
ファンの方たちの、写真集の感想をお渡しします。写真はもとより、蓋を開けてみたら、ロングインタビューも予想外の大反響となりました。 


刑事 ありがとうございます。僕もちょいちょいTwitterで見ていたんですけど……。それに、僕にもたくさん声が届いていたんですよ。電子じゃなくて、紙にしてほしいって。

―― やはり、そうでしたか(笑) 

刑事 届いてはいたんですけど……。

―― でも、電子には、いつまでも色褪せない魅力があります。いまの田中さんではなくて(笑)、80歳になったときの田中さんに、25歳のひと夏を懐かしんでもらえたら嬉しいです。百年経っても、電子は色褪せないですから。

刑事 僕もそう思います。

―― 特に今回は、類を見ない、超高画質の写真集ですので、まだご覧になっていない方は、ぜひお見逃しなく。

刑事 あとは写真集を見て、実際にアイスショーや試合に足を運んでもらえたらと。元をたどれば、そこにいきつきます。
現地でもいいですし、テレビで応援してくださるのでもいい。そこにつながれば大正解なので、今回こんな形ですが、僕自身、満足しています。

 

田中刑事写真集

写真=鮫島亜希子『素顔の田中刑事』より
聞き手=『田中刑事写真集』編集部
公式Twitter@tanakakeiji_pix
 

はみだしクイズ

去り際に、田中さんが、「そういえば、エヴァンゲリオン、変えたんですよ。一目見たら、すぐにわかると思いますが……」という謎の言葉を残されました。
さて、「ドリームオンアイス」をご覧になったみなさんは、エヴァ衣装のどこを変えたかお分かりでしたか?

A. 袖
B. 上着
C. ズボン


答えは、告知ページの一番下にあります。