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武蔵野美術大学×高校生 classwork #02 前編

02 musabi
対談・インタビュー
「季刊エス」のWEBサイトにて、武蔵野美術大学の学生が、イラストや漫画を描く高校生を訪ねる不定期連載「武蔵野美術大学×高校生 classwork」。第2回目となる今回の訪問先は、神奈川県立弥栄高等学校・美術部です。訪問するムサビ生はデザイン情報学科2年・Asagon。さん、基礎デザイン学科2年・PubiAさん、はやしなおゆきさん、そして油絵学科1年・ラジオ聴くエゴイストさんの4名です。4名ともにイラスト研究会所属です。高校生からムサビ生への素朴な疑問、ムサビ生から高校生へのイラスト講評を通して、ムサビという美術大学でイラストや漫画を描くことの意味や楽しさ、また、どんな学生たちがムサビに在学していて、どんなことを学んでいるのかをレポートします!

ムサビ生

造形学部・デザイン情報学科2年 Asagon。さん
造形学部・基礎デザイン学科2年 PubiAさん
造形学部・基礎デザイン学科2年 はやしなおゆきさん
造形学部・油絵学科[油絵専攻]1年 ラジオ聴くエゴイストさん  

 

高校生 神奈川県立弥栄高等学校・美術部

 神奈川県立弥栄高等学校
 


 

 



Asagon。さんの作品「涙雨」

 

 

ムサビの学び

まずは、高校生への自己紹介を兼ねて、ムサビ生が普段大学でどんな勉強をしているのかを、それぞれの学科ごとに紹介します。

Asagon。 僕が在籍するデザイン情報学科では、美術館のパンフレットをデザインするような、基本的なデザインの勉強をするほか、ファイン系についても一通り学ぶことで、プロデューサー・アートディレクターになるための思考を養います。実はデザイン情報学科は、実技だけでなく数学や小論文で受験することもできるので、僕は数学で入りました。

はやし 僕とPubiAさんは基礎デザイン学科です。「デザイン」を掲げていますが、本当に何でも勉強する学科で、2Dのグラフィックデザインから立体まで、教授も専門分野の異なる様々な先生方が在籍しています。そのなかでデザインとは何なのか、を学ぶ学科です。だから衣装をつくったり、写真を撮ったり、僕らのようにイラストを描いている学生もいて、みんな幅広く好きなことをやっています。

PubiA 授業では本をつくったり、自分でプログラミングをして、好きなようにサイトをつくったり、デザイン学科らしくIllustlatorを使ってポスターのデザインをするなど、本当に色々な分野の制作をしています。

はやし つい最近だと、「日本の形」というキーワードだけが与えられて、立体をつくるという課題がありました。僕はカップラーメンの蓋の部分が日本っぽいと思ったので、ラドールという白い粘土でカップラーメンの蓋をつくりました。
ラジオ聴くエゴイスト 僕は油絵を専攻しています。3人とは違ってファイン系ですね。デザイン系は実用性に重きを置く学問ですが、ファイン系は自分の個性、独自の感性を作品として昇華することが4年間を通しての目標です。ただ、油絵学科に入ったからといって、必ずしもキャンバスに絵を描かなければいけないわけではないので、僕も、どちらかと言えばインスタレーション・空間芸術と呼ばれるものをやっています。例えばゴミ問題をテーマにして廃棄物を使った作品をつくったり、授業の発表でパフォーマンスをしたり。もちろん油絵にこだわって制作をする学生もいますが、油絵学科も、油絵を専門にする教授から現代美術を専門にする教授までいるので、授業も自分のやりたいことに合わせて選択することができます。

Asagon。さん

PubiAさん

はやしさん

ラジオ聴くエゴイストさん

 

高校生からムサビ生へのQ&A

ここからは、高校生がムサビ生に向けて質問を投げかけます。それぞれの疑問にムサビ生の4人はどんな回答をするのでしょう?

 

Q1 子季さんの質問 

みなさんが絵に興味を持ったきっかけはイラストでしたか? それとも、いわゆる美術の絵画でしたか?


A1

PubiA 私はイラストでした。

はやし 僕もイラストです。小学校の頃は漫画家になりたいと思っていました。それで絵を描ける環境に行きたいと思い、進学先をムサビに決めました。

Asagon。 僕もイラストからです。実はかつて親が漫画家をしていて……(一同驚く)。親を見て漫画家のハードさを知っていたので、自分はイラストを描こうと思いました。
ラジオ聴くエゴイスト 僕はちょっと経緯が特殊かもしれません。高校の時にディベートの全国大会で準優勝をしたのですが、その時に言葉だけだと日本人にしか伝わらないし、その場に居合わせた人にしか伝わらないなと思ったんです。それで、伝えたいことを言葉から絵に置き換えることで、もっといろんな人に広げられるんじゃないかと思ったので、美術を選択しました。

 


Q2 クリスプラ子さんの質問

将来的にイラストのお仕事をお考えですか?

A2
Asagon。 はい。

PubiA 私は1年生の時は結構、迷っていました。もともとはデザインを学ぶためにムサビに入学しましたが、デザインも楽しいけれど絵のほうがもっと楽しいと思って。今は決心してイラストレーターか、キャラクターデザイナーを目指しています…!

はやし 僕はイラストの仕事もしたいけど、就職はしようと思っています。

ラジオ聴くエゴイスト 僕はまだちょっと未定です。予備校講師も視野に入れつつ、イラストの仕事はフリーでちょっとする、くらいで考えています。

 

Q3 飴ちゃんさんの質問

私は主に映像作品をつくっているのですが、もともとはイラストが好きで、イラストを描くために弥栄高校に入りました。でも自分の求めていることと、実際のレベルがあまりに違って、イラストが嫌いになっちゃってるんです。皆さんに、そういう時期はありましたか?
 

【はやしさんの作品】
 

「違法建築の街」


 

「廃東京」


 

「魔女の街」

 

A3
はやし たまに泣いてますよ(笑)。周期がありますよね。僕は本当に描けない時期は、ゲームをしたり映画を観たり旅行に行ったりして、描こうかなという気持ちになるのを待ちます。あとは、今は背景メインのイラストを描いていますが、もともとは女の子を描いていたので、例えば背景で行き詰まったらキャラクターを描いてみたりすると、結構うまくいくことが多いです。

Asagon。 僕は結構、歯ぎしりしながら描くタイプですね。「この苦しみを乗り越えたら、次は必ず良くなるはずだ…っ!」と。根性論ですけど、時にはそれも大事だと思います。できてるな、と思うと油断しちゃうから、できなくて悔しいと感じるのも悪いことじゃないと思います。キツい時のほうが燃えます。

PubiA 私は気持ちのコントロールがうまくなくて、よく泣いちゃったりします。でも、色々な人に励ましてもらったりして、やっぱり描いたほうが描かないでいるよりうまくなるから、下手で嫌でも描こう、と思いながら描いています。

ラジオ聴くエゴイスト 僕は週1枚、月4枚と決めているので、そんなにいっぱい絵を描くわけじゃないんですけど、月末に描いた絵をPCのファイルに保存することを習慣にしているので、その習慣だけは守ろうと思っています。全然描けない日もあるんですけど、やる時は一気にバーッと寝ないで描いちゃうので、その時以外はPCの電源も抜いてしまいます。描かない時は、同人誌とか、見るべき参考資料を食い入るようにめくって、ひたすら読み込み作業に没頭します。
 

 



Q4 うぐいすさんからの質問

昔からずっと絵を描いているのに、なかなか上達しません。皆さんは、とても上手ですが、いつ、どれくらい描いて、そんなに絵が上達したのでしょう?
 

A4
はやし 僕が人生で一番絵に打ち込んだのは、ムサビに入ってからです。僕たちはイラスト研究会に所属しているんですけど、先輩にめちゃくちゃうまい人がいたので、めっちゃ焦って。しかも、Asagon。くんは同級生なのに超うまかった。高校の時は、僕も描けるほうで通っていたんですけど、ムサビに入ったら全然違ったんですよね。それでヤバいと思って、入学して半年はとにかく、めちゃくちゃ描きました。その時は他に何かインプットするとかでもなく、絵だけを集中して描いていたので、今、見返すとそんなにいい作品じゃなかったりするんですけど、一時的にたくさん描いたのはよかったと思います。

Asagon。 僕はイラスト自体は高1から描いているのですが、高3の時に初めてコミティアに出て、そこから大学1年、2年と夏コミに出たので、出るからには、ひたすら同人誌を描くしかない……という感じで締切前は、今でもたくさん描いています。「イベントで同人誌を出すぞ!」というのがモチベーションになって、たくさん描けるんです。

PubiA 私は、中学の時から絵を描いていましたが、たくさん描くようになったのは、高校の時にSNSでうまい人と知り合ってからです。でも私の高校には美術部も無かったし、親も絵を描くことに反対していたので、デッサンをしたのも高3になってからでした。その時は全然画力が足りなくて受験もうまくいかなかったので、高校を卒業してから、めちゃくちゃ描きました。それで半年でスケッチブック1冊128ページ分を描き上げました(笑)。
ラジオ聴くエゴイスト 僕もPubiAさんと同じで、受験期が一番描いていました。僕は横浜から新宿まで予備校に通っていたので、その間はひたすら人物スケッチをしていたんです。最終的に紙の両面で3000枚くらい描きました。そのほかにも延々、終電まで山手線に乗ってスケッチをしたり。そんな感じで体力が尽きてきた頃に、コミティアに出て、プロのイラストレーターさんたちから、いろんな情報を得て、ちょっとずつデジタルや着彩についても勉強しました。高2、高3が一番描いていましたね。


【ラジオ聴くエゴイストさんの作品】
 

浮く

 

独り遊び
 

人形で遊ぶ

Q5 Yさんからの質問
イラスト研究会の具体的な活動内容を教えてください。


A5
はやし じゃあ、僕が副部長なので代表して。ムサビにはイラスト系だと、他にワイワイ楽しく活動している漫画研究会もあるのですが、うちはなぜかストイックな奴らしか集まらなくて(笑)。活動内容としては、集まって描くというよりは、各々描いてきたものを持ち寄って、講評しあうという感じです。8割くらい描けた段階で、一度みんなにアドバイスもらって、完成まで直していくという人が多いです。集まって活動するのは月に2回くらいで、そのうち全体講評会をやるのが1回、希望者を募って少人数でやるのが1回です。放課後、部室に集まって、「ここは、こうしたほうがいいんじゃない?」なんて話をしながら、楽しくやっています。
 

 


Q6 八坂さんからの質問
私は背景を描きこんであるイラストが好きなのですが、いざ自分で描くとなると気持ちが乗りません。背景を描くための気分の乗せ方、アイディアの出し方を知りたいです。

 

A6
Asagon。 僕は人物から描きます。さすがに構図をつくりこんでいる絵は背景が先ですが、まずは人物を完成させちゃいますね。人物がうまくいくと、背景もちゃんと描きたい、と思ってモチベーションを保てるので。
はやし 僕が背景をちゃんと描き始めたのはムサビに入ってからなんです。高3まではずっと美少女だけ描いていて、背景を描くのは苦手でした。でも、それじゃダメだと思ったのでムサビでは真面目に背景に取り組もうと、まずは自分で撮った写真を模写していました。でも、キャラを先に描いて、それに合わせて後から背景を描くのって、めっちゃ難しいんですよ。それで一回、背景だけを練習してみたら、わりと楽しく描けて。そういうことを続けているうちに、「あ、ここにキャラを乗っければいいじゃん」とキャラと背景の組み合わせ方もわかってきました。だから一度、背景だけを描いてみる価値はあると思います。

ラジオ聴くエゴイスト 僕ははやしさんと逆で、高校の時は背景ばかりで、人物はまったく描いていませんでした。だからキャラクターを描き始めたのは大学に入ってから。でも、背景以外も試して色々やっていくうちに、人物の造形美も面白いな、人物メインに描いてみてもいいのかな、という感じで人物も描くようになりました。はやしさんも言っていたように、背景とキャラクターの間の取り方というのは、すごく難しいです。僕の場合は、Photoshopで写真を入れてみたり、それを削ってみたり、いわゆる「フォトバッシュ」と呼ばれる技術を使っています。ソフトウェアの力を借りて調整するのも、一つの手段かなと思います。

PubiA 私はキャラを最初に描いたら、絶対に背景を描く気にならないんですよ。後から描くと壁だけ、とかになってしまうので、最初に構図を決めてから描き始めます。そこから色を決めて、遠近感を考えて、キャラを描くんです。


【Asagon。さんの作品】
 

「戦闘不能」

 

「納刀」


Q7 月野さんからの質問
私は将来、イラストか映像の道に進みたいと思っていますが、美大と専門学校、どちらがいいのでしょう? 美大に進学して一番よかったと思うことは何ですか?


A7
Asagon。 多くの場合、専門学校は二年制なので、入学した初年度と、就職活動のための2年目しか時間がありません。もし余裕をもって進路を考えたり、勉強したりしたいのであれば、さらに2年ある美大のほうがいいんじゃないかと思います。よかったところは、ムサビには凄い先輩がたくさんいるので、刺激になります。

PubiA 私は美大でも専門学校でも、自分の目的に合わせて選択すればいいと思います。例えばキャラクターデザインをする際に、どういう要素が人の心を動かすのか……というような画力以外の「考え方」を学べるのは美大のいいところだと思います。逆に即戦力のアニメーターになるために、とにかく画力を上げたい、という場合は、たぶん専門学校のほうが合っているんじゃないかと思います。

はやし 絵が好きだと、つい、それしかやらなくなったりするものですが、僕は基礎デザイン学科にいるおかげで、たぶん自分一人では絶対にやらないようなことを授業でやっていて、それが表現の幅になっているのかなと思います。意外と何を勉強しても、イラストには繋がっているんですよね。もう一つは、いろんな学科があるので、映像の先輩に誘われてアニメの背景を描いたり、実写映画にエキストラで出演したり。それは、いろんな人がいる美大ならではの経験だと思います。4年間あるので、一回絵を休んで脱線することもできるし、自分が何をやりたいのか、見つめ直す時間はたっぷりあると思います。

ラジオ聴くエゴイスト 僕はまだ入学して1年目なので、あまり語れることはないんですけど……例えばムサビを含め、どの美大の、どの学科を受験するにも必ずある程度のデッサン力は求められます。そしてデザイン学科だったら色彩構成、油絵だったらもちろん絵画の技術も必要です。ですから入学時に、ある一定水準を越えた人たちが集まっていて、極端な実力差がないのが、美大と専門学校の違いかなと思います。
 

 


Q8 方舟さんからの質問
何を描くかをずっと考えてしまって、一枚の絵を仕上げるのにすごく時間がかかります。絵を描くためのインスピレーションをもらえる時間や場所があったら教えてください。
 

A8
ラジオ聴くエゴイスト とにかく外に出て、歩いて、情報を収集することでインスピレーションを得ています。僕はドキュメンタリー映画やサイコホラー映画が好きなんですけど、そういう映画ってTOHOシネマズみたいな大きな映画館では、あまりやってないんです。それで新宿武蔵野館というこじんまりとした映画館で、あまり一般には上映されてないような映画を観たりします。あとはブックオフにもよく行きます。参考になりそうな本を、棚全部買い占める勢いで買ったり、どうしても買うお金がなかったら全部立ち読みして頭に詰め込めんだり。そうやって情報を収集していると、興味のあることはメモなんか取らなくても自然と頭の中に残っていくんですよね。他には、横浜から箱根まで歩いたりもします(笑)。できる範囲でいいから、日常ではやらない、ちょっとしたチャレンジすることで、リアルなんだけどファンタジーチックな体験ができるので、そういう時にインスピレーションが蓄えられるのかなと思います。

はやし 僕は絵を見てもらえばわかる通り、ゲームが好きなので、自分がやりたいゲームを絵にしようというところが結構あります。ただ、それだけだとゲームを真似した絵になってしまうので、写真を撮りに出かけたりして、そこで実際に見たものを自分の絵に落とし込みます。フィクションをそのまま描くのではなく、撮った写真、行った場所の記憶を持ってくると、ちゃんと自分らしい絵が描けるのかなと思います。

Asagon。 僕は自分の世界をつくるのが好きなんですけど、フィクションの世界って、どちらかと言うと、映画やゲームよりも漫画に近いんですよ。だから漫画を読んで、主人公の性格や敵の設定などを研究するのが好きです。そのインプットとしてやっているのは、単行本の1巻だけを買って、世界観設定や人物像、先の展開を想像して読むということ。そういう蓄積を自分の作品にも活かしています。あとは、インスピレーションが湧く場所というか、僕は通学時間が2時間近くあるので、さらに遠回りして座れる路線に乗って、iPadで絵を描いているんです。その時に通話しながら画面共有したり、最近はpixivスケッチで配信したり。僕の場合は、そうやって誰かに見られていることで結構描けます。


【PubiAさんの作品】
 

「不意な出会い」

 

「雨上がり」

 

「“帰ろうよ。”」

 

PubiA 私は、本当に日常のちょっとしたなかでインスピレーションが湧きます。例えば、神社が好きなので、京都でたくさん神社を回っていたら、小さな路地で偶然出合った、見知らぬ神社に心打たれて、その感動を他の人にも届けられたらいいな、という思いから絵を描いたり。あとは、例えば、お姫さまが好きじゃない人と結婚しなくてはいけない時に、好きな人が止めに来た、という場面を描くとして、それだけだとすごく平凡ですよね。そういう時に、好きな人だから格好良いドラゴンに乗って現れるのではなく、豚に乗って現れたら面白いかな、というふうにあえて逆転の発想で描くことも多いです。


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