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武蔵野美術大学×高校生 classwork #03

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対談・インタビュー

ムサビ生

造形学部・基礎デザイン学科2年 はやしなおゆきさん
造形学部・デザイン情報学科4年 荒川さん
造形学部・油絵学科3年 からますさん 

 

高校生 都立工芸高等学校・グラフィックアーツ科

「季刊エス」のWEBサイトにて、武蔵野美術大学の学生が、イラストや漫画を描く高校生を訪ねる不定期連載「武蔵野美術大学×高校生 classwork」。第3回目となる今回の訪問先は、都立工芸高等学校・グラフィックアーツ科です。訪問するムサビ生は前回に引き続いての参加となる造形学部・基礎デザイン学科2年のはやしなおゆきさんに、デザイン情報学科4年の荒川さん、油絵学科3年のからますさんの3名です。3名ともイラスト研究会所属です。ムサビ生と高校生との対話や、ムサビ生から高校生へのイラスト講評を通して、ムサビという美術大学で作品をつくることの意味や楽しさ、また、どんな学生たちがムサビに在学していて、どんなことを学び、どんな活動をしているのかをレポートします!
 


ムサビ生の作品


都立工芸高等学校・グラフィックアーツ科の生徒たち


 

ムサビ生の学び

まずは、高校生への自己紹介を兼ねて、ムサビ生が普段大学でどんな勉強をしているのか、また学外ではどんな活動をしているのかを紹介します。

はやし 基礎デザイン学科2年のはやしなおゆきです。基礎デザイン学科はグラフィックをやる人もいればプロダクトをやる人もいて、教授も様々な専門分野の方が在籍しています。いくつか例を挙げると、映像が専門の教授の授業で、テレビ番組のコンテをつくったり、フィルムカメラについて学ぶ授業で実際に現像したり、あるいはパンフレットをつくるなど、本当にいろんなことを学べる学科だと思います。学科の友達の志望領域もバラバラです。僕自身はイラスト研究会に所属していて、将来は絵を描く仕事に就きたいという気持ちがあるので、この学科で学んだことを絵にも活かしています。

荒川 デザイン情報学科4年の荒川です。この学科の一番の強みも、おそらく様々な分野の学問を縦断して学べることで、学生全体の傾向としてはアニメやゲームを好きな人が多い印象です。もちろん、ロゴやポスターなどのグラフィックデザイン、映像制作、絵を描いたり、プログラミングをする人もいて、みんな自由にやっています。今日は卒業制作作品を持ってきました。自分はタイポグラフィーをやっていたので、書体の本をつくったんです。ありがたいことに優秀賞をいただいて、大学のパンフレットにも載ることになりました!

──基礎デザイン学科とデザイン情報学科の違いは何でしょう?

荒川 受験方式の違いは大きいと思います。基本的に併願できるので、受けられる学科は受けたほうがいいと思いますが、デザイン情報学科は数学受験ができるので、数学が得意な人は有利かもしれません。僕もデッサンは一切やっていなかったので、数学で受験しました。

はやし 
在籍している教授で学科を選ぶ選択肢もあると思います。どの教授のゼミを取るかで、何を学ぶかはかなり変わるので、将来的に自分がやりたいことに繋がる教授がいるかどうかで学科を選ぶのもいいと思います。

からます 僕はふたりと違って油絵学科でファインアートを勉強しているので、シンプルに絵を描いたり、作品をつくることが多いです。1、2年は課題となったモチーフを描くなかで、油絵の技法を色々と試すのがメインですが、3年からは1ヶ月なら1ヶ月という期間、アトリエにこもって、たまに先生が来てコメントをする以外は自由に作品を制作し、講評の日にみんなで集まるというのがメインになります。4年になるとその期間が半年に延び、そこで制作した一つの作品が、そのまま卒業制作になります。ここも自分の好きなことを自由にやれる学科なので、やりたいことが決まっていて、あまり課題に縛られたくない人にオススメです。自分も、SFテイストのイラストをデジタルで描いているので、講評にはそれを大きく印刷して提出していますし、中には漫画を提出する人もいます。油絵とは名ばかりで、様々な表現の作品をつくる学科です。

 

からますさんの作品



──では、みなさんが学科の勉強以外にどんな活動をしているかも教えてください。

はやし 去年の夏に趣味で同人誌をつくりました。最近は、知り合いのつてで東村山の病院に飾られる絵を描いたり、ゲームの背景の仕事をいただいたりしています。他には、課題図書の文章をレイアウトして表紙を描くという、装画の賞にも応募しました。イラストレーターを目指して、色々とやっています。他には友達の同人誌にイラストを寄稿したりもしています。

荒川 自分はイラスト研究会の中では少数派の、あまりイラスト自体を描かない人間です。代わりに同人誌のデザインは結構やっていて、からますくんともう一人別のイラストレーターと一緒に同人誌をつくりました。自分は表紙のデザインと中身のレイアウトをやっています。

からます 絵や設定は自分が考えて、みんなで創作しようという感じでつくりました。

荒川 他にはムサビの課題と関係なく、いろんな欧文書体の記号を比較して研究する本をつくり、それを踏まえた上で卒業制作に入りました。ですから普段なんとなく調べていることが、制作にも繋がっています。最近は就職が決まったデザイン事務所の仕事も手伝わせてもらっています。画集のレイアウトとか、アニメのロゴとか。早い段階で、プロと同じ現場で活動することは経験値になると思いますね。

──デザイン情報学科の学生さんは、学生時代から企業にインターンやアルバイトに行くことが多いんですか?

荒川 学科に関係なく、自分の進むべき道が決まっている人は、早いうちに行動しているという印象です。自分の場合は、2年の最後からデザイナーの道に進もうと決めていたので。でも、その段階で決めている人は、かなり早いほうじゃないかと思いますが。

──なるほど。からますさんは、普段からSFテイストの絵を描いているんですよね。

からます はい。描いたイラストはネットに上げています。背景付きでロボットの絵を上げていたら、たまたまロボットのプラモデルをつくっている方から、「パッケージアートを描いてくれませんか?」と声をかけてもらいました。最近はTwitterにしか絵を上げていないのですが、TwitterのDMから仕事が来ることは多いです。プラモデルのパッケージの仕事が来たのが1年の終わり頃で、その頃から色々と声がかかるようになりました。去年1年の休学期間と、3年の今はずっと絵の仕事をやっている感じです。あとは、これはあまり多いケースではないかもしれませんが、学内の就職説明会でゲーム会社の方に自分のイラストを見せたんです。それで「休学中で暇で、仕事も色々やっているんです」とお伝えしたら、「じゃあ、うちでも仕事をしませんか?」と言っていただき、そのままゲーム会社でバイトをしたり。キャラクターデザインなどもやらせていただいて、いい経験になっています。

──はやしさんは絵の仕事をしていきたいということですが、進路については、どう考えていますか。

はやし 僕も、からますさんぐらい実力があったら……(笑)。からますさんの活動の仕方は理想ですね。

──休学してゲーム会社で働いちゃう、というのはなかなか異色ですよね。

はやし 忙しすぎて休学したんでしたっけ?

からます そうですね、その前にやっていた案件で忙しくなっちゃって、大学との両立が難しくなって……。

はやし 僕は一度就職はしようかな、と思っています。例えば今後フリーでゲームの仕事をしたいと思った時に、例えばゲーム会社で3年間働いた実績があるほうが仕事も任されやすいのかな、と思って。完全にフリーになるのは一度社会に出て経験を積んでからでも遅くないかなと思っています。でもイラストを描く生活は好きなので、フリーの仕事ももっといただけたら嬉しいです。

 

 


 

はやしなおゆきさんの作品
(上図:あおぞらレディスクリニック・提供イラスト/下図:第6回東京装画賞応募作品「魔女の宅急便」)


 

──みなさんは、もとから絵を描いていらしたと思うんですけど、ムサビに入学する前と今では、だいぶ変わったんじゃないですか?

はやし 僕は1年の頃からイラストをやりたいと思っていたので、まずはイラスト研究会を見学しに行ったら、からますさんが格好良い絵を描いていて、ヤバいなと思ったんです(笑)。高校の時は自分も絵は上手いほうだと思っていたんですけど、大学に入ったら、上手い人なんてゾロゾロいて。このままじゃいけないと思ったので、昔はキャラクターばかり描いていたんですけど、背景もちゃんと練習して、絵を描く量も増やしました。

──はやしさんは絵の仕事をしていきたいということですが、進路については、どう考えていますか。

荒川 僕の場合は、先程も言いましたがデッサンなしで入学したので、絵を描き始めたのもムサビに入ってからなんです。美大を受験した一番大きな理由も、東京に来てみたかったから。自分は愛知県出身なんですけど、関東から来た先生の話を聞くと、どこでも選べるなら東京一択、とおっしゃっていて。それでデッサンなしで受験できるムサビを見つけて、じゃあ受けてみようかなと思ったのが最初です。とにかく東京に行きたい、ただ、それだけでした(笑)。で、実際に東京の美術大学という道を選択して正解だったと思いました。やっぱり、おふたりの話からもわかる通り、すごくいろんなチャンスが転がってるんですよ。

からます 僕は、そもそも小学生の頃から、将来自分は何で食っていくんだろう? と悩んでいて。何も武器がないな、じゃあ絵を描くかと思って、男子が可愛い女の子の絵を描くのも恥ずかしかったので、一番好きだったロボットを描くようになったんです。やるからには絶対にモノにしようと思って、ずっとロボットと風景をうまく描けるようになるぞ、と思って今に至ります。

──絵を描き続けるにあたって、油絵学科以外の選択肢もありましたか?

からます 油絵学科一択でした。高校の美術部で油絵を描いていたのも受験の手助けになると思ったし、油絵学科で自分の好きな絵をとことん描くぞ、と思っていました。

 



 

やりたいことをやるために進むべき学科は?

ここからは、高校生がムサビ生に向けて質問を投げかけます。それぞれの疑問にムサビ生の3名はどんな回答をするのでしょう?

富岡 私はグラフィックアーツ科にいるので、ムサビのデザイン系学科に進学したいと思い、予備校にも通っているんですけど、デザイン系の学科にも色々あるので、どこがいいのか迷っています。

はやし デザイン系学科はどこに入ってもわりと何でもやれるとは思います。その上で各学科ごとの傾向はあるので、荒川さんみたいにタイポグラフィーをやりたい人だと、視覚伝達デザイン学科が多いですね。基礎デザイン学科は考えることが好きで、デザインにおける思考力を突き詰めたい人が多くいます。

荒川 先程も言った通り、学科ごとに受験方式が違うので、まずは自分の行きたい学科の入試の配点を確認することが一番大事だと思います。実技がどれだけ影響するのか、実技がギリギリでも学科を取れれば受かるのか。どういう戦略で合格を目指すのかを、勉強を始める前に考えておいたほうがいいと思います。デザイン情報学科なら数学受験ができるとか。デザイン情報学科は、1年の時は絵を描いていたのに、2年になったらプログラミングをやっているとか、方向転換をする人がメチャクチャいるのも特徴です。そう考えると、まだやりたいことが明確には決まっていなくて、大学に入ってから悩みたいという人にもオススメですよ(笑)。

はやし ただ、どの学科に入っても絵を描きたい人は描けるし、もちろん基礎デザイン学科でも荒川さんのような活動をする人もいるし、映像を撮りだす人だっているので、わりとどの学科に行っても自分次第で好きなことはできると思います。

 

荒川さんの作品

 

──カリキュラムの違いや、課題の多さなどはいかがですか?

荒川 デザイン情報学科は1年が一番忙しくて、月曜日から土曜日まで必修の授業があるので、朝イチで大学に行かなければいけません。その代わりに、2年からはかなり余裕があって、なかには2年で教養科目の必要な単位を取り終わる人もいます。早くから就活のために動きたい人は、合理的にカリキュラムを組めると思います。

はやし 基礎デザイン学科は、他のデザイン系学科に比べると、まだゆとりがある気がします。ただ、2年になると選択授業を年間で三つほど選択しなくてはいけないのですが、その組み合わせ方次第で、忙しい時期と暇な時期が偏りやすい、ということはあります。

──なるほど。富岡さんからはデザイン系学科への質問でしたが、せっかくなので油絵学科の忙しさや具体的なカリキュラムについても教えてください

からます 先程も少しお話しましたが、基本的に1、2年は課題を与えられて、毎日イーゼルに向かって絵を描きます。そのなかで、そもそも絵具とは何かを知るために、粉を渡されて絵具になるまで油と混ぜて練り続けたり、古典技法といって、テンペラという卵の黄身を使って絵具を固めていた頃の描き方を試したり。3年からは、1ヶ月なり半年なり期間を与えられて講評に出します。自分は3年になってからは、ほとんど授業には出席せず、ずっと家でデジタルの絵を描いています。それを大きく印刷して、講評の日だけ出席して提出するという感じでした。油絵学科は、特に自由に時間が取れる学科だと思います。

山本 私は油絵学科志望です。将来は漫画を描きたいのですが、課題と並行するのは大変かなと思ったんですけど、それだけ自由ならできそうかな……という気がしてきました。

からます そういう人もいますよ。油絵学科の先輩で、講評には漫画を出していて、そのまま卒業後も漫画を描き続けて、今は賞に応募したりしている人もいます。ただ、教授はもちろん油絵の作家なので、漫画を講評に出すと困っていそうな感じですけど、なんとかなると思います(笑)。

 

作品講評会

いよいよ、ムサビ生が高校生たちの作品を見て講評コメントをしていきます。
ここからは、イラストや漫画とともにコメントをご紹介します!
 


 

【阿部さんの作品】
 

阿部 最近描いた3枚です。最初にバストアップの絵を先生に見せたら、もう少し背景にもこだわったほうがいいと言われて、他の2枚を描きました。それまでは背景を描いたことがなかったので、まずは写真を撮りに行き、それを加工してから加筆しました。全部スマホのibisPaintで描いています。バストアップばかりで、ちゃんと全身を描いたこともなかったので、妹に同じポーズをつくってもらって写真を撮り、それと見比べて関節がおかしくないかなどのチェックもしました。

はやし まず、背景が得意じゃないということですが、それで写真加工で背景をつくろうという発想に至り、ちゃんとイラストとなじむように加工できているのが凄いと思います。背景とキャラに違和感もないし、パースも正しいし、すごくイイですよね。背景とキャラの光も合っていて、キャラが実際にここにいるんだ、という説得力があると思います。

荒川 一番楽しく描けたのは顔でしょうか?

阿部 手と目が好きで、そこにいつも時間をかけるようにしています。バストアップの絵は、目を何度も加工しました。

荒川 そういう自分のこだわりに、時間とプライドをかけられるのはいいことだと思います。背景は難しいですよね。僕も苦手なので、よく文字で誤魔化してタイポグラフィーを作品にしちゃおう、みたいな感じです(笑)。そういうふうに逃げることなく、ちゃんと背景に挑戦しようという姿勢が伝わってきました。絵を描くために写真を撮りに行くとか、実物を見ながら描くというのも、ストイックで素晴らしいです。続けていけばどんどん上手くなると思うし、そもそも現時点でもかなり上手いと思います。

からます ムチャクチャ雰囲気がいいなと思って、船の上の振り向いている絵が好きですね。目と手を意識して描いているそうですが、まず、鑑賞者の目にパッと飛び込んでくるのは、まさに目、顔、手だと思うので、そこを自然に意識できているのはいいことだと思います。写真を使って背景を描く技法はフォトバッシュと言いますが、夕焼けを描きたいけど青空の背景写真しかない時に、青空だけ消して夕焼けをはめこんだり、ビルを建てたいと思ったらビルの部分だけ別の写真から切り抜いて使ったり、いろんな写真を組み合わせて背景をつくることができるので、どんどん試してみてほしいです。

 

【片平さんの作品】
 

片平 1枚目は、中3の時に描いた絵の目の色を変えて、今回参加するにあたって背景を追加してみました。2枚目は最近アイドルにハマっているので、アイドルのPVのワンシーンを切り取った絵を描きました。3枚目は目だけ描きたくて描きました。以上です!

はやし パッと見た感じ、目の絵が気になりました。バストアップではなく、目だけを描いてみようという発想が面白いですよね。2枚目は「アイドルPV」というコンセプトですが、「こういう絵にしたい」というゴールをちゃんと設定できて、それが実際に形になっているのは絵を描くプロセスとして素晴らしいですね。

荒川 線画が綺麗でいいと思います。こういう感じの絵だと、女の子自体も大事だけど、それ以外の要素も主張してくるので、細部まで気をつかえると、さらにクオリティが上がって見えると思います。例えば真っ直ぐな線をフリーハンドで描かないとか。絵はすごく上手だと思うので、そういうことができると、もう一段階上に行けると思いますよ。

からます すごく上手いですね。自分があまり女の子の絵を描かないので構図の話をすると、結構まとまっていると思います。たぶん聞いたことはあると思うんですけど、絵を描く時に「視線誘導」という考え方があって、絵を見たらまずキャラクターの顔を見ますよね。そのキャラクターが顔を向けている方向、手を伸ばしている方向に鑑賞者の目は向く。人間のそういう生理的な習慣があるんですけど、そういったことも自然と意識された絵だと感じました。2枚目の絵も、空間の右側があまらないように信号機が置かれていたり、1枚目の絵の三角形のパーティクルの散らし方も計算されていて、空きすぎず詰まりすぎず、斜めに流れをつくっているのがいいと思いました。 

 

【大石さんの作品】


大石 私は暗い絵と「人外」が好きです。身体全体をうまく描けないので、代わりに街の風景なんかをよく描いています。キャラに合わせて背景を描くのは苦手なので、背景だけを描くことが多いです。

はやし これはデジタルですか? 色が綺麗ですね、一瞬アクリルかなと思いました。まず、顔から出ている線だとか、おそらく一番見てほしいであろう部分に一番明るい色や情報量があるので、絵の基本的な考え方はしっかりしていると思いました。その上で気になったのは、白黒の画面のなかで顔から出ている線にだけ色が付いているので、一応は顔に目線が誘導されるけど、ちょっと暗すぎるかなと。あまり明るい色は入れたくないと思うんですけど、もう少し目立つ色を入れると、さらに一瞬でそこに注目が集まると思います。でも格好良い絵ですよ!

荒川 デジタルということですが、画面で見ていた色と、実際に印刷で出てきた色が全然違う、ということはありませんか? 最終的にどういうメディアで見せるかを意識しながら描くのも、大事なことだと思います。例えば同人誌にする予定なら、印刷でも再現できる色にしようとか。月の絵は、建物の間が青色で区切られてはいるけど、かなり遠目で見ると境界がわかりづらい。ディスプレイで見たらわかるのかもしれないけれど、印刷物だと伝わりづらいんですね。その辺りの感覚は描きつづけることで、「この前の絵は潰れたから、もう少し明るくしよう」とか、どんどん学んでいけると思います。完成の前に一度試しに印刷してみるとか、別のディスプレイで見てみるといいかもしれません。あとは画面サイズによって見え方も変わるので、PCで描いたあとにスマホに送って確認してみる、というのもオススメです。

からます 非常に繊細な感覚で描かれていて格好良いと思います。ビルの窓が黄色や緑色に見えるというのは、自分もよくわかる感覚なので、それを絵で見せられるといいなと思います。この茶色のキャラクターの絵だけ、他の二つと色づかいが違いますが、意識的に変えているんですか? 鬼火だから青色で、葉っぱだから緑色というふうに描かれていて、他の絵に比べると色が分散してしまっている印象を受けます。葉っぱだからと言って必ずしも緑色に描く必要はないし、例えばもっと赤くして背景の色となじませてもいいと思うんです。やっぱり人の顔が見えている絵は目を引きやすいので、人物を入れつつも、他の二つみたいな色彩や構図で描けると、もっと良くなるんじゃないかと思います。

 

【山本さんの作品】

 

山本 白衣と水面の絵は、漫画用にストックしているキャラです。水面の絵はアナログで描いたものを、後からデジタルで調整しました。水面の不規則な感じは、最初にアナログで描いたほうが雰囲気は出やすいと思ったんです。茶色の絵は質感の描き分けを練習したくて、肌と目の差を意識して描きました。

はやし 僕は白衣の絵が好みです。キャラクターを目立たせたい時に、こうやって綺麗に光を添えて、キャラクターの格好良いところに目が行くように描くのはいいと思います。個人的に気になったのは構図です。ベッドの幅にあわせて横幅をトリミングするか、ベッドの幅を広げるか、あるいは壁にポスターを貼る、煙を空間に伸ばしてあげる、などするといいと思いました。これはデザイン科の受験みたいな知識ですけど、僕はとにかく何もない空間やトリミングしたほうがいい部分がないかを、絵を描く時には常に気をつけています。それをチェックするために、スマホに送って小さい画面で確認したり、一旦絵を見ない時間をつくったり。スマホで見ると頭が切り替わって、「あ、ここは要らないな」と気づけたりするので、オススメです。

荒川 水面の絵を見て、自分はアナログを描けないので、純粋に凄いと思いました。水の表現もすごく上手い。もし青色で塗られていなくても水だとわかるぐらい、描写力があると思います。服のシワも気をつかって、細部までちゃんと描かれていると思います。「描き切るぞ」という強い意志を感じる絵です。描き込みで唯一気になるのは髪かな。他の部分をこれだけ描いているんだから、同じように毛先まで描けたら、そこも一つ、見せ場になりそうですよね。もっと行けそうだなと思いました。あとは、はやし君も言っていたように構図ぐらいじゃないかと思います。

からます 自分も構図については、ちょっとだけ気にはなったんですけど、パッと見の印象はどれもすごくいいと思います。表情も豊かに描けていますし、非常に上手いと思いました。これは漫画のキャラなんですよね?

山本  茶色の絵以外はそうです。

からます 一枚絵と漫画だと描き方は変わりますよね。漫画はコマ割りが非常に大事だと思うので、そちらも頑張ってください!

はやし これだけイラストが上手いなら、漫画もきっと上手いんじゃないかな。

からます うん、イラストは非常に上手いですね。表情が上手い。表情は大事です! 

 

【富岡さんの作品】


富岡 中1、中2の時はずっと漫画やイラストの模写ばかりしていて、端から細かく描いていくのが癖になっていたんです。そこから抜け出したくて、最近デッサン教室に通い始めました。少しずつ全体を見ながら描くことができるようになってきたので、それを活かしたくて緑の絵と空の絵を描いたんです。緑の絵のほうは写真を撮って模写して、空の絵は写真を参考にしつつアレンジして描きました。人を描こうとすると絶対にバストアップになっちゃうので、人物の絵は背景も頑張って描きました。

はやし 僕は人物のバストアップの絵が、一目見た瞬間にいいなと思いました。構図もいいですよね。左側に空間はあるけど、それが無駄になっていない。普通、絵を見る時って目や顔にまずは視線が行くと思うんですけど、左に向かって風が吹いていることに気づいた瞬間、左側に何かあるのかな…と視線が泳ぐわけです。それを左の空間がキャッチする役割をしているので、見ていてすごく気持ちいいんですよね。全体の色彩、背景のビルに薄い紫色を置いているのもいいと思いました。

荒川 どれも全体を見ているな、ということが伝わってきました。それに加えてサムネイル映えする絵だとも思います。このままで、もちろん上手なんですけど、ネットに上げた時にサムネイルって、かなり大事なんですよ。やっぱりネットで数字を稼ぐことと関係なく、パッと見た時の印象って大事なので。壁に飾られている絵を遠くから見た時に、「あ、あの絵だ」と思って近づくかどうかは、サムネイルと同じ。人はまず一枚絵の全体としての印象を見て、その次にようやく顔に目が行くので。そういう意味で、それぞれが青い絵、緑にちょっとアクセントとしてオレンジのある絵、ピンクの絵という感じで、引きで見た時に強いインパクトがあって、何の絵だろうと興味を引く構成になっているのがいいと思いました。全体に目を向けようと思っているとお話されていましたが、それは正解だと思います。ちなみに今回の絵は現実の風景ですが、はやし君とからます君は、現実に存在しない風景を描く時は何に気をつけていますか? 

からます もともと完全に存在しないものって、なかなか創造できないんですよ。だからSFの摩天楼であっても、現実のビルをぐーっと引き伸ばしてみるとか、必ずどこかに元ネタはあるんです。例えば、はやし君が以前に描いていた違法建築の絵も、ちゃんとモチーフありきで広げていってますよね?
 

 

からすまさんの摩天楼をモチーフにした作品
 はやしなおゆきさんの作品「違法建築の街」


はやし 法律上は良くないんですけど、アジアなどでビルの上にさらに無理やり家を増築して住んでいる人たちがいるんですよ。そのビジュアルが面白かったので、そこからイメージを膨らませて、ムチャクチャにどんどん建物をくっつけていったらどうなるかなと思って描いたものですね。ファンタジーでも何かしら元ネタになるものはあると思います。それがないと、共感されるのは難しい気がするので。

荒川 富岡さんの絵も、そういうレベルまで行けそうだな、と見ていて思ったんですよね。

はやし 例えば旅先で、美しい風景に感動したとしたら、それはいくらでもアイディアの元になります。この風景にドラゴンを飛ばしてみたいとか、そういう発想でいいと思います。

からます 今描いているものからSFに行くか、現実の空間のまま突き進むかはさておき、非常に空間の使い方が上手いと思いました。何気ないものが魅力的に見えて惹きつけられました。みかんのオレンジ色もちゃんと映えています。人物の絵も、最初にはやし君が言ったように、なびく髪を左側の空間で受けとめていると自分も思いました。空の絵も、入道雲の影を単純に黒にはしないで、空気を含んだ青を使っているのもいいと思います。いろんな景色を見るのが好きなんだろうなと思ったし、観察したことを見せたい、伝えたいという意識が伝わってきます。岩の黒さもいいし、非常に上手い!

はやし 最後にちょっといいですか。人物のバストアップの絵はすごくいいんですけど、一つだけ直したら、さらにいいなという点が。雲をガサガサしたタッチで描いているけど、キャラクターにもガサッとした質感があるので、手前と奥の差が出せていないかなと思いました。それは線画を描けという話ではないんですけど、ちょっと人物と背景でタッチが似ちゃっているのが惜しいと思いました。雲はこのままでいいと思うけど、キャラクターはもっと光が当たっている部分をきっちり描くとか、細い線で描くとかしたら、さらにキャラクターが前に出て、奥行きのある絵になるんじゃないかと思いました。



最後に、はやしさんが全体で絵を捉えて仕上げていく様子を動画で見せてくれました。
第6回東京装画賞応募作品「夜のピクニック」の制作動画はこちらからチェック▼


講評後も高校生からのムサビ生への質問は尽きず、高校生のイラストをどのように直すべきか、実際にムサビ生が手を入れてみせるという場面も見られました。というわけで、第3回目はムサビ生と都立工芸高校・グラフィックアーツ科の生徒さんとの放課後の交流をお届けしました。今後も新たな高校生のもとへムサビ生が訪ねてゆきます。これから美大進学を考える中高生はぜひ参考にしてみてくださいね。次回もお楽しみに!

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