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いのまたむつみさんのご逝去につきまして

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いのまたむつみさんのご逝去の報に受けて、謹んでお悔やみを申し上げます。

エス編集部の前身となる美術出版社の時代から、Comickers1996冬、色彩王国2で表紙を描いていただき、
私たちの先輩がたがメイキング記事を担当されました。

その頃からずっとお世話になってきましたが、2019年には、いのまたさんの画業40周年を記念した書籍
『いのまたむつみ画業40周年記念画集 Sanctuary』をエス編集部で刊行させていただきました。
同時に、「季刊エス」の表紙もお願いして、画集と雑誌の表紙絵が、赤いリボンでつながるという作品を手掛けてくださいました。
両イラストとも、メイキングを掲載して、いのまたさんが絵をお描きになる様子をレポートさせてもらいました。
アトリエに入れていただき、机の脇で画集の表紙が完成する最後の仕上げを、撮影させていただいたものでした。
編集部一同、記念すべき書籍をご一緒出来たことに、感謝を申し上げます。

これまで、いのまたさんに幾度かインタビューをしましたが、現在のイラスト界の礎を築いた方だと本当に思い知らされました。
アニメの版権イラストは、今では当たり前ですが、いのまたさんたちが始めたものだと伺いました。
アニメ雑誌が創刊されて、そこに掲載する大きなビジュアルが必要になり、本編のセル画を印刷用に再撮影していた。
しかし、用意できないことが多く、新しくセル画を描くことになった。
そこで、アニメーターながらセル画仕上げの経験もあったいのまたさんがそのセル画を描きはじめる。
ただ、セル画専用の道具がある作画スタジオは少なく、試しに水彩で仕上げてみたら、
それが使われるようになり、それも一つの潮流になっていったそうです。
これは、アニメの版権イラストが生まれた瞬間の証言であるとともに、
「アニメの絵柄がイラストとして仕上げられる作品」が生まれるきっかけのお話でもありました。

また、ゲームのパッケージデザインをイラストレーターが手掛けたのも、いのまたさんが最初期です。
『ファイナルファンタジー』発売より前に、『ALPHA』というゲームが発売されました。
いのまたさんは、アニメ、ゲーム、小説の世界で、旺盛に活動されましたが、
漫画アニメ的にデザインされたイラストを黎明期から支えた作家でした。
立体感、透明感、カゲの入れ方などを非常に工夫されて、
試行錯誤しながらリアルとデフォルメのバランスを考えていたそうです。
それは、現在のイラスト界の発展の大元をつくった功績と言えます。

そして、驚きべきは現在に至るまで、愛らしく格好いいキャラクターイラストを描き続けられたということです。
いのまたさんは、ずっとフレッシュでピュアなイラストを描いてこられました。
ずっと等身大で私たちに向けたキャラクターを描いてくれました。
こんなに可愛い子たちを、45年にも渡って描き続けられるのは奇跡です。
いのまたさんに最大限の敬意を払いつつ、ご冥福をお祈りいたします。

エス編集部