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映画『FUNNY BUNNY』飯塚 健インタビュー

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飯塚健が舞台や小説で描いてきた作品『FUNNY BUNNY』がついに映画化された。うさぎの着ぐるみによる図書館襲撃とラジオ局電波ジャック。2つの事件の背後には、予想もできない真実が隠されていた。自殺志願者を見分ける能力を持つ自称「小説家」の剣持聡が巻き起こす騒動には、彼自身の哲学が宿り、そのエネルギッシュな言葉と行動は、人々を引き付けて1つの渦を形作る。悲しみに震え、絶望に立ち止まる人を突き動かす剣持の大胆な力が炸裂する。今回は飯塚健にインタビューをおこない、本作の魅力を紹介!
 

映画『FUNNY BUNNY』飯塚健インタビュー

――『FUNNY BUNNY』は、小説が刊行されたとき、『REPLAY&DESTROY』(以下、『REPLAY』と略記)とつながった物語として紹介されていましたね。

飯塚 『FUNNY BUNNY』の方が産みはだいぶ先です。その後『REPLAY』を描いた時、二作が相似形になったら面白い、と思い姉妹作にしました。隣町くらいの関係ですね。今回の映画のクレジットでは、2012年の青山円形劇場の舞台を原作としました。本来『FUNNY BUNNY』はそれよりもっと前、2007年が初演なのですが、青山円形劇場のために脚本を書くに当たり、さらに凝縮した世界を構築出来たので、2012年版を原作としました。
当初、脚本を考えていた時、舞台だからその空間、「箱」を考えました。そこで図書館を思いついたんです。そして、そこにどうやったら強盗が入れるかな、と。図書館からすごく高価な本を強盗した実話が元の『アメリカン・アニマルズ』という映画がありますが、文化的な場所に強盗が入ることはそんなに不思議ではない。で、図書館は本を借りに行く場所。そこから発想して、「絶対に借りられない本」を奪うというアイディアにたどり着いた。その段階で、「4年後」の物語も描くという2幕構成にしていました。

――なるほど。『FUNNY BUNNY』という言葉は、the pillowsの曲がありますが、関係はありますか?

飯塚 直接の関係はないですが、インスパイアはされていると思います。僕はあの歌が大好きなので。うさぎの着ぐるみが登場する話なので、「ナントカBUNNY」か「BUNNYナントカ」だな、とタイトルを考えていた時に、シャッフルであの曲がかかったんですよ。

――そうだったのですね。原作の舞台の時から、中華飯店「再見」は出てきていたんですか?

飯塚 ありました。

――『REPLAY』にも出てきますよね。その時は、菅原大吉さんがオヤジを演じていました。

飯塚 そこはスイッチして違う役割になっています。だから、『REPLAY』から追いかけてくれている人が見たら、「あ、再見のオヤジが代わっている」と(笑)。

――今回、菅原さんはタクシーの運転手になっていますね。再見のオヤジを演じている角田さんは『REPLAY』ではアンティーク家具屋でした。役柄が違うけど同じメンバーが出ているのは楽しいです。そして『FUNNY BUNNY』の主人公である剣持は、哲学や行動から、とても存在感の強い人物だと伝わります。演じた中川大志さんは「ダークヒーローっぽいキャラクター」と言っていました。

飯塚 無茶苦茶なことをしていてもついてくる仲間がいて、彼らを巻き込む求心力を持っている男。世の中的には犯罪だけれども、その行為はどう考えても犯罪ではない、と思うことってある。剣持は高校生の時に「子供を殺された親は復讐してもいい」というようなことを語りますが、それは正義だと思って僕は書いています。復讐したら結局同じじゃないか、という意見もあるでしょうが、同じではない。「想像してみろ」ということですね。自分の子供が殺されてもそう思うか? と。世の中には理不尽なことが溢れている。みんなが疑問に思うそういうことを、映画だったら語って良いんじゃないかと思うんです。もちろん「それは違う!」という人がいても良い。議論することにも意味がある。

――法律や理性でいう「正義」と、感情の入った「正義」は違うというか。剣持はそういった意味で、感情がすごく入っていますね。

飯塚 はい。それを堂々と言える人です。だから逆に、反対意見も堂々と聞けると思います。反対意見もあるだろうけど、「俺は絶対にこう思う」ということは伝える。

――ここ最近は、みんなはっきりと意志表示をしにくいから、「突き進む」キャラクター像は描きにくいところがあるかもしれませんが、飯塚さんの作品には必ず、「ごちゃごちゃ言わずにやろうぜ!」という人物が出てきます。そこは大きな魅力です。

飯塚 最近、僕が撮る作品は「結局、熱いよね」と言われるんです。「結局、熱い」とは何だろう?と思って(笑)。

――人生を諦めない人が出てきますよね。「喪失感」は共感を得やすいので、そこに寄せる作品は多いのですが、飯塚さんの作品はまた違います。

飯塚 『FUNNY BUNNY』や『REPLAY』は、哲学をがなりますよね。それはリトマス試験紙だと僕は思っているんですよ。ありがたいことに、「突き刺さった」とか「言葉に撃ち抜かれた」と言っていただくことがありますが、「正論すぎてどうのこうの」と、ネガティブなことも言われます。それで良いんですけど、そう言う人は、何か後ろめたいことがある、ってことが透けている。今置かれている場所から逃げているのかもしれない。「毎回、飯塚の作品は結局、乗れねえんだよな」と仰る人もいますが、結局観てくれているので、ありがたいです(笑)。僕のキャラクターはハッキリものを言うのですが、そういうところは、見ている人にも何かのきっかけになって欲しいと思います。それは自分にも言えるんですよ。昔に書いた作品を改めて映画にしましたから、「あの時言っていたことを自分は達成出来ているのか?」「攻めることを忘れていないか?」という風に、自分が書いたことが自分に跳ね返ってくる。僕がこの世界に入ってから一番長く付き合ってきた物語でもあるから、いろいろ思いながら脚本を書いていきました。

――本作ではそんな剣持の高校生のときの話として、いじめが出てきます。友人の田所君がいじめられている。いじめに遭うと自殺や引きこもりに向かうものですが、田所君は殺意が芽生えるんですよね。それが特徴的だと思います。立ち向かうにはパワーが必要。だから田所君が魅力的に映ります。

飯塚 『笑う招き猫』でも同じことをやっています。立ち向かいます。今、『ひとつ屋根の下』のことを思い出しました。あれはいじめの話ではないですが、性的暴力を受けた妹に、「兄ちゃんが守ってやるから立ち上がるんだ」という話をしますよね。「悪い奴らなんだから訴えよう」と。「そんなことをしたら、その事件の話をしなければならない。何で法廷で嫌な記憶の話をさせるんだ」と、みんなは反対する。これは典型的なジレンマ構造です。どちらも正しい。どちらの気持ちも分かる。「でも、逃げてはいけない」ということを兄ちゃんは言っているんですよね。「これが世の中だ、と認めてしまったら、どうやって生きていくんだよ」と。僕も親ですから分かります。娘に何かあって転校した方が良いということであれば、家ごと引っ越してやるよ、と思いますけど、逃げることを選んだ時に、その後どう育っていくのかは心配です。逃げることがいつも選択肢にある子になってしまう。これはヘビーなテーマだと思いますが。

――立ち向かうかどうかですね。剣持はまっすぐな人だから、田所君をいじめていたトリオを殴りますよね。だから田所君も逃げるだけではなかったのかな、と思います。

飯塚 そこで一つ補足があるとすれば、剣持の心情ですよね。彼は、「田所君は俺と友だちでなかったら死んでなかったかもしれない」と思ったはずなんですよ。田所君は、「(剣持の)影響があって、筋トレをはじめたんだよ」と言いますよね。「お前と対等でいられなくなる。だから、立ち上がる。変わるんだ」と。そこを考えると、「俺と友だちでなかったら死んでいなかったよね」と思わない人間はいないと思う。

――映画を見る私たちが想像すべきところですね。図書館に強盗に入るという本作の事件は、田所君が死んだことに関係しているかもしれない。剣持の友人である漆原は、「田所君もそう望んでいるかもしれないし、剣持がやろうとしていることもある意味正義だ」と言います。それを聞いた服部さんたちは「逆のことを言おうと思っていた」と言う。確かに世間一般では「死んだ人は復讐なんか望んでいないはずだよ」と言って止めます。でも漆原はそういう言い方では止めない。

飯塚 みんな、「個」であるべきなんです。そもそも田所君のいじめの話も、「違うものに怯える」という人間の性質から来ていることだと思うし。田所君にそういう気配を感じるから、叩き続けたんですよ。田所君が「くだらねえ」と思っていることを感じたから。『大人ドロップ』でも同じことを言っています。いじめられても、「どうせ、あんな奴らとの付き合いは、あともう少しで終わるよ」と言っている奴は強い。変にひねてしまうわけではなく、「俺は先を見ているからさ。ここは、パンを買ってくれば良いだけの話でしょ」ということで済ませる。そういう奴は将来、良い男になると思います。

――なるほど。本作では、後半のラジオ局編も含め、両方のお話に「死」がありました。飯塚さんはそこにまつわる話を描きたかったのでしょうか。

飯塚 死生観はずっとあるんでしょうね。はじめて撮った『Summer Nude』もそうですから。「人は突然死ぬものだ」という思いがあって。「なぜこの人がこのタイミングで死ぬんだ?!」ということは多々ある。死んでからでは遅いわけだし、だったら逃げるよりも立ち向かった方が良いんじゃないか、と思う。僕は母親を九歳で亡くしているんですが、その日のことは今でも覚えています。『榎田貿易堂』で出てきた祖母島が原風景なんです。小学校にはバスで通っていて、その日もバスで帰ってきたんですが、なぜか混んでいるんですよ。なんでだろう? と思っていたら、家のバス停の近くで事故があったと。そこで名前を呼ばれて降ろされたんです。そうしたら、あまり会ったことのない親戚の人が待っていて、そのまま病院に連れていかれました。その景色は鮮明に覚えているし、忘れることはありません。あとは、亡くなった人に触った時の冷たさというか、感触。温度ではないんですよね、ただ冷たい。「これはもう肉体ではないんだな」と、瞬間的に悟るんです。それは覚えています。僕は、人は「容れ物」だと思っているんです。誰かのことを語る時に、その人が死んでしまったら、結局のところ、その人を構成するものは周りの人の話でしかない。つまり「記憶」です。曖昧な記憶の集合体が人だよな、という感じはすごくします。そして記憶はどんどん怪しくなっていく。そういったことは、ずっと描いていきたいと思っています。

――『FUNNY BUNNY』では、死んだ人のことを「想像することは出来る」というセリフと、「死んだ人を忘れる」ということ、その両方が出てきます。

飯塚 たまに思い出せば良いと思うんです。「絶対に忘れない」というのは、そこに留まってしまっているわけじゃないですか。足にガチャンと輪っかをつけてしまうのは違うと思うんです。その人を思い出すことが、すべて「死」につながるというのなら、それは忘れないとダメだと思う。後編で描いた物語だって、みんなで楽しくバーベキューしたことを思い出さないという生き方をしてはダメだ、ということです。菊池が事故現場のことばかり思っていてもね。服部も同じです。

――確かにそうですね。菊池が仕事で自販機のセットをしている公園で、ブランコに乗っている剣持と会いますよね。あそこで鈴の音がしていますが、あの鈴から、田所君が倒れた公園かなと…。

飯塚 そこも想像力でいろいろ感じて欲しいですね。ラジオ局編の事故現場である環七の道路も同じです。供えられた枯れた花がありましたね。あれをどう捉えるのかも自由なんです。ああいう場所なので他に事故があってもおかしくない。でも、あそこには服部が来ているから、定期的に供えているのかな、とか、原作と結びつけて、花はマリーゴールドなのかな、とか考えてくれても良い。それも、その人の見る目次第ですから。同時に、信じ切らないで欲しいとも思います。そうすると生きづらくなってしまうから。他の答えがあっても良い。違ったら違ったで良いんですよね。違う見方も否定せず、それぞれに感じてほしいですね。他人と一緒なんかじゃなくていい。

――後半のラジオ局編では、菊池が歌うシーンが出てきますね。あそこのボルテージがすごいと思いました。

飯塚 演じた落合モトキが素晴らしいんです。本当にもっと評価されるべき俳優なので、代表作と言えるシーンになって欲しいな、という思いもありました。凄まじく大変なシーンなんです。ギターを弾きながら言葉を喋るというのは、身体と連動させづらいし、難しいんですけど、よく稽古してくれました。あの役はそう簡単には出来ないですよ。

――小説だと遠藤がDJをするシーンもありましたが、映画では完全に菊池の独壇場になっていて、すごかったです。落合さんも素晴らしかったですが、今回は中川さんも良かったですね。『REPLAY』の時は、父親と向き合えない内向的な息子の役でしたが、今回は堂々と剣持を演じていました。飯塚さんにはどう映りましたか?

飯塚 大志がやるからこそ、「FUNNY」な部分が増えたと思います。原作はもっと屈強なイメージなので。大志は大志で、剣持のことをすごく愛してくれていて、「こうやりたい」とか「こういう服を着ていましたよね」と言っていました。一つ、すごく難しかったのが環七の道路でのモトキとのシーンです。モトキ演じる菊池が「それでも人は生きなければダメなのか?」と言いますよね。あれがこの映画の匙加減だな、と思っています。「ダメに決まっているだろう!」と、剣持は言える男じゃないですか。でも、そう言ってしまったら、追い込んでしまう。あそこで「知らねえよ」と返すのは、ある種、剣持の「隙」の部分だと思うんです。剣持だって、「確かにダメじゃないかもな」という思いも半々なんだと思います。それくらいの隙はある男だと思うので。生きるというのは大変だということですよ、本当に。

――落合モトキさんと中川大志さんの掛け合いは、良いシーンの連続でした。剣持の「頼れる男」という感じも出ていましたし。

飯塚 そう思っていただけたなら良かったです。

――本作は、人物像やハイテンポな会話、仲間が描かれるというところも、『REPLAY』『放課後グルーブ』『大人ドロップ』にも見られた飯塚さんらしさを感じました。最後に、今回オリジナル作品を撮られた感想をお聞かせください。

飯塚 感動ひとしおです。長くつき合ってきた作品がスクリーンになったことは、やっぱり他の作品よりも思い入れが深いです。それに、「剣持聡」を演じられる役者がいて良かったな、と思います。剣持がダメだったら、目も当てられないですからね。だから、本当に大志で良かったし、天音(漆原役の岡山天音)で良かったですよ。「あの二人をまた見たい!」という声が上がったら良いな、と思います。

――私たちもそう感じます。剣持たちの活躍を今後も見たくなる作品でした。今後にも期待しています。ありがとうございました。


プロフィール

飯塚健(いいづか・けん)
映画監督。脚本家。1979年生まれ、2003年、『Summer Nude』でデビュー。若干22才で監督を務めたことが大きな反響を呼んだ。代表作に『荒川アンダーザブリッジ』(11ドラマ、12映画)、『大人ドロップ』(14)、「REPLAY&DESTROY」(15ドラマ)、『笑う招き猫』(17ドラマ、映画)、『榎田貿易堂』(18)、『虹色デイズ』(18)、『ステップ』(20)など多数。また、ブルーノート・ジャパンとのライブショウ『コントと音楽』プロジェクト、MV、小説、絵本の出版とボーダレスに活動。
6/18には、最新作『ヒノマルソウル〜舞台裏の英雄たち〜』の公開がひかえている。


FUNNY BUNNY
4/29(木・祝)より
映画館&auスマートパスプレミアムにて
同時ロードショー


出演
中川大志 岡山天音 / 関めぐみ 森田想 レイニ ゆうたろう 
田中俊介 佐野弘樹 山中聡 落合モトキ / 角田晃広 菅原大吉

スタッフ
監督・脚本・編集:飯塚健
製作総指揮:森田圭 エグゼクティブプロデューサー:多田一国 大野高宏 プロデューサー:金山 宇田川寧 吉田憲一 共同プロデューサー:田口雄介
音楽:海田庄吾 撮影:小松高志 

2021年/日本/103分/カラー/ビスタ/5.1ch/  

原作:舞台「FUNNY BUNNY -鳥獣と寂寞の空-」(演出・脚本 飯塚健 /青山円形劇場、 2012)、小説「FUNNY BUNNY」(飯塚健/朝日新聞出版)

製作:KDDI 制作プロダクション:ダブ
配給:「FUNNY BUNNY」製作委員会
(C)2021「FUNNY BUNNY」製作委員会

https://funnybunny-movie.jp
公式Twitter@FUNNYBUNNY2021
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